- 高橋 英海 助教授
- 中央大学
総合政策学部 高橋 英海 助教授 (たかはし・ひでみ)
1965年愛知県生まれ。88年英国セント・アンドルーズ大学(西洋古典学専攻)卒。98年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程(西洋古典学)単位取得退学。96年より02年まで独国フランクフルト大学博士課程(東洋学専攻)。02年より現職。2004年 アリストテレスのシリア語訳『Aristotelian Meteorology in Syriac』がオランダの出版社から刊行。
外国語習得の究極は日本人以外の視点を知ること

- 総合政策学部の入る多摩キャンパス11号棟
中央大学には「総合政策学部」というユニークな学部がある。
ますます多様な問題を抱えつつある現代社会にあって、単一の学問分野のアプローチでは解決できない事態も多い。そうした問題解決のために、学際的な教育によって複眼的思考力を備えた人材の育成をめざすのが同学部である。
「この学部の特徴はさまざまな分野の先生が集まっていることですね。学生にとっては、いろんな分野の先生と接することで多様な視点でものが見られ、知的刺激は大きいと思います。私自身もいろんな先生と話ができるんで、かなり面白い学部だと思っていますよ」
そう語るのは同学部助教授の高橋英海先生である。
総合政策学部の特徴のひとつとして、「英語を学ぶ」ではなく「英語で学ぶ」という方針がある。英語だけで行われる講義も多く、学生には英語の実践力を身につけることが求められる。 高橋先生はその肝心のツールである英語を教えている。
ご本人はいわゆる帰国子女だというが、その来歴を聞くとほとんどネイティブスピーカーといってもいいようだ。
「父が商社マンだった関係で小学5年からイラクに行きまして、そこのインターナショナルスクールで1年間学びました。小学6年からは単身でイギリスに渡り、寄宿制のパブリックスクールに入りました。『ハリー・ポッター』の世界に近い経験でしたね」
「その後も大学までイギリスで学びましたが、高校ではコナン・ドイルの後輩、大学ではウィリアム王子の先輩ということになります(笑)」
これらの来歴などが買われ、2002年度から同学部に招かれて教壇に立つことになった。
専門は中世シリア語とアラビア語文献学

- 英語ではない外国語原書に囲まれた高橋研究室
ところで講義で英語を教える高橋先生だが、専門に研究しているのはちょっと別で、中世シリア語とアラビア語文献学だという。先の英国時代に学んだのがラテン語・ギリシア語で、それが現在の研究につながっているのだ。
「イギリスでは、高校生のときに専門を決めて学びはじめます。私は歴史に興味があったのと、小さいころからいろんな言語にふれて親しんでいたこともあって、その2つの興味が重なってラテン語・ギリシア語(西洋古典学)などというものを学ぶことになったわけです」
「親などからは『そんなものを学んで何の役に立つのか?』と猛反対されましたが、押し切りました(笑)」
当時の英国でも、ラテン語・ギリシア語を学ぶ学生は少なかったようだ。大学1年生のときのギリシア語の講義は、教える教授と学ぶ高橋先生が1対1のマンツーマンだったという。非常にマイナーな(?)学問分野を物語るエピソードだが、逆に教授と1対1での講義というのは最高に贅沢な学習環境でもあったわけだ。
英国から帰国した高橋先生は東京大学大学院に進み、さらにマイナーな中世シリア語の研究に分け入ることになる。
「私がはじめて接した外国がイラクだったというのが大きいと思います。あまり出かける機会のない国ですからね。欧米とは違うイスラムの世界にふれて衝撃と刺激を受けました」
「それに歴史好きの父に連れられて、世界最古のメソポタミア文明の遺跡を見て回ったんですが、小学生のときのそうした経験が今日の研究につながっているんでしょうね」
シリア語というのは、現在はほとんど使われてはいない。残っている文献の多くは中世までのもので、それを渉猟して読み解くというのが先生の研究方法となる。
「いまはイスラム圏にあるいわゆる中近東も、7世紀まではキリスト教徒が多く住んでいました。シリアには古いキリスト教に関するシリア語で書かれた写本が残されています」
「なかには何世紀も人の目にふれていない写本もあって、そういうものを探し出して広く世界に紹介するのが私の研究になりますね」
先進国の価値観と違う別の世界の存在も

- 中大多摩キャンパスにはなんと滝もある
日本でこうした研究に携わっている人は、高橋先生を含めて5指にも満たないらしい。こうした希少な研究をしていることについては次のように語ってくれた。
「やはりちょっと寂しいところはありますね(笑)。ただ、人の知らないことを研究している愉しさもあります」
「ある意味では、自然科学上の発見に似たところがあるかも知れません。すでに忘れられているものを掘り起こして発見し、しかもそれが世界中で誰も知らないことであるというのは愉しいことです。自分のやりたいことが仕事になっているのはとても幸運だとも思っています」
高橋先生は寡黙な人柄のようで、話し方もいたって静かだ。顎にたくわえた髭、メガネの奥の柔和な眼差しと相まって、まるで修学僧とでもいった雰囲気すらある。
学生たちに対して、先生は自身の特異な研究を押しつける気はないが、また一方で、「自分にしかできないことを見つけることの大切さ」を説く。
「この分野は得意だというもの、この分野では誰にも負けないというものをつくる努力をしてほしいですね。それには、いろんな視点から物事を見られるようにして、とくに少数者や弱者の立場からも見るようにすることが大切でしょうね」
「また、いわゆる欧米先進国の価値観とは違った別の世界がたくさんあることも知っていてほしいと思います」
いま世界中が「戦争か平和か」で注目しているイラクのサダム・フセイン政権をめぐる大量破壊兵器査察問題でも、メディアから一方的に伝えられてくる情報をただ鵜呑みにするだけでは最高学府で学ぶ者としてあまりにも浅薄ではないだろうか。
そうした多面的なものの見方を学び、各々の得意分野の発見のチャンスを与えてくれるのが総合政策学科ならではユニークさでもあるのだ。
「私自身は、語学を研究していて面白くてたまらないと思っています。英語を教えていながら言うのも何ですが、英語だけが外国語ではないということですね。母国語以外の言葉を身につけることは、いろんな視点で見られることになって、いろんな世界が開けてくることになります」
そう語ってくれる高橋先生にまず英語を学び、その人柄と学識にふれることは、この学部で学ぶ実りともなろう。人間味の深い先生である。
こんな生徒に来てほしい
世界に目を向けている人ですね。私自身がヨーロッパにいた経験からしますと、EUなどではそれぞれの国が国境を越えていろいろなことをやっていこうとしています。これからは日本という国のレベルで考えるのではなくて、世界のために働くことを考えてほしいですね。また、そういう人を育てたいとも思っています。










