- 瀧口 雅章 助教授
- 武蔵工業大学
工学部 機械工学科 瀧口 雅章 (たきぐち・まさあき)助教授
1955年生まれ。武蔵工業大学工学部機械工学科卒、同大学大学院機械工学専攻博士課程修了(工学博士)。日野自動車工業勤務をへて現職。専門は自動車用内燃機関のピストンライポロジー。
米国自動車技術会よりコルウェル賞を2度、国際自動車技術連盟より優秀論文賞を受賞。
「学生との良好な関係が世界レベルの研究を生む」

- 測定装置を組み込んだエンジンのピストン部分。学生のお手製だ
「相手は世界ですから」
瀧口先生は、気負うでもなく「世界」を口にする。
「企業と違って、大学は1つのことしか研究していませんから、世界でトップにもなれるんですよ」
一見ごくありふれた研究室で語られる先生の言葉は、にわかには信じがたい。しかし、瀧口先生が所属する内燃機関研究室が世界中から注目されているのは決して誇張ではない。
インターネット上では、米国の大手自動車部品メーカーが内燃機関研究所のデータを用いて自社部品を宣伝している。国際会議での発表があった翌日には、海外企業から共同研究の依頼が電子メールで舞い込む。研究データが自社製品に及ぼす影響を知るために、世界中の企業が直接先生に電話をかけてくる。
通常の大学研究室では考えられないようなこんな出来事が、この研究室では日々当たり前に起こっている。現在、国内外を合わせて企業との共同研究が10件以上。内燃機関研究室でしか得られないデータがあるからこその結果なのだ。
世界を相手に独創の研究内容

- 研究室自慢のオリジナルエンジン。さまざまな実験に活用できる研究室の自作エンジンは、国内企業のみならず何とマサチューセッツ工科大学からも注文が!
瀧口先生の主な研究テーマは、エンジンのピストンの摩擦とその周辺の潤滑である。なかでもエンジン内部の計測法の応用開発に関しては世界トップレベルの評価を受けている。
一見地味な研究テーマだが、この研究は自動車の大気汚染対策や省エネ対策と密接に結びつく。問題解決をめざしてエンジンを改良すればするほど、エンジン自体への負担も増える。そのための摩擦や摩耗を軽減する技術やその測定が必要不可欠となるのだ。
研究室で使われるのは、すべて実物の自動車エンジン。つまりガソリンが実際に内燃爆発しているすぐそばにあるピストン部で、圧力・温度・動き・変形などを測定しなければならない。
しかも測定に使うセンサー自体がエンジンに影響がでないよう工夫しなければ、正確なデータは得られない。そのための精度たるや、もはや一般人にはうかがいしれない世界だ。
たとえば電圧の変化でピストン内部を測定するセンサーはなんと0.8ミリ。そのセンサーにリード線を通すだけでも大変なのに、実際に実験データをとるためにはエンジンを数時間運転しつづけなければならない。ピストン部の油膜の厚さを測る技術にいたっては、光ファイバーを埋め込んだ断面に1ミクロンでも段差があれば実験は失敗だという。
「測定原理そのものは決して目新しい方法でもありません。ただし、実際にエンジンに組み込んでデータをとるためには様々な工夫が必要になります。トライ・アンド・エラーで測定装置に細かな改良を加えていくしか方法がありません」
コンピュータによるシミュレーションが最近の欧米諸国では全盛で、実際のエンジンから計測データをとる研究が少ないとされる。しかしどんなに計算し尽くされたシミュレーションでも、実験データによって検証されてはじめてエンジンの設計・開発に効力を発揮する。実際の現象を測定できなければ、エンジン開発など進められないのである。
「細かな作業だけに、真似はなかなかできないですよ。忍耐力も必要ですし。そのかわり、数学や物理など不得意な学生でもウチならきちんとした研究ができるともいえます。実験装置が方程式代わりとなって、答えをはじき出してきますからね」
興味をもたせるのがプロの仕事

- 黙々と作業を続ける学生たち。誰もが熱中して研究している姿が印象に残る
この「実験装置が方程式」というのが瀧口先生の口癖らしい。
機械好きが集まり、機械をコツコツと改良する者だけが、研究室で世界に通じるデータを集められるのだ。こうした学生たちを瀧口先生は手放しでほめる。
「素晴らしい能力をもった学生が実際に集まっていますよ。とにかく研究に興味をもってからのスピードは誰にも負けない。すごい集中力で、一気に吸収していきます。だから学生にいかに興味をもたせるかが重要ですね。嫌いなことをしたって面白くないでしょ」
そう言うと、楽しそうに笑う。
研究に興味をもたせるのは教育のプロである先生の仕事だと言う。
平日は朝9時から夜遅くまで研究し、そのうえ夏休みも削って研究室に通う学生たちの姿を見れば、学生の興味をうまく引きだしていることを疑う余地はない。
「学生をその気にさせるポイントは、できるだけ最初から失敗しないように指導することです。それでも研究していくなかで嫌というほど失敗を経験しますから。もう1つは、研究成果を学生に実感させることでしょうね。研究しただけで報われなければ、誰でもやる気は起きませんよ」
と語る言葉には、実感がこもる。
今回の取材で最も印象に残っているのは、学生たちの作った細かな部品を見つめる先生の顔だ。学生の試作品のできばえを、まるで自分のことのように誇る姿がそこにある。
「ウチの学生はね、これぐらいのものならすぐ作ってしまうんです。もともと機械いじりが好きな連中だから」制作者の顔が浮かんだのか、そう言うと先生は目を細めた。研究そのものと同じぐらいに学生たちが好きなのだ。だからこそ、学生たちも先生から真剣に学ぼうとするのだろう。「世界トップ」の研究室の秘密は、意外とこんなところにあったのである。
こんな生徒に来てほしい
数学や物理が得意なことと、物理現象を研究する能力とは違います。だから、学科の勉強が得意な学生よりも好奇心の強い学生に来てもらいたいですね。あと、感性の豊かな学生かな。研究の原動力は楽しさですから。実際、うれしいのか楽しいのかわからないような学生は研究に没頭しきれないようですね。

