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Good Professor

竜田 邦明

竜田 邦明 教授
早稲田大学
理工学部

竜田 邦明(たつた・くにあき)教授
1940年大阪生まれ。68年慶應義塾大学大学院博士課程修了(応用化学)。68年武田薬品工業研究員。69年慶應義塾大学助手。73年米・ハーバード大学博士研究員。77年慶應義塾大学助教授。86年同教授。93年早稲田大学客員教授。97年より現職。英・ケンブリッジ大学客員教授も兼任。紫綬褒章など受賞多数。

主な著作に『GlycoscienceⅠ~Ⅲ』(ドイツ)、『Carbohydrate Synthons in Natural Products Chemistry』(米国)などがある。

「ドクター全合成」竜田邦明教授の“化楽”のすすめ

実験設備でいっぱいの研究室と学生たち
実験設備でいっぱいの研究室と学生たち

早稲田大学理工学部の応用化学科教授である竜田邦明先生は、有機合成分野の世界的権威である。世界中の研究者は敬意を込めて、先生のことを「Dr. Total Synthesis」と呼ぶ。「全合成の博士」という意味だ。

竜田先生の業績の第一は、微生物をはじめ生体がつくる生理活性物質の化学合成に成功したことだ。現在76種類の生理活性物質が合成されているが、そのうち 71種類は先生が世界初の全合成(単純な化合物から天然物を化学合成すること)に成功している。「ドクター全合成」と呼ばれるゆえんである。

「人体の機能が低下したとき、それを活性化させるのが生理活性物質です。医薬品に応用されている抗生物質もそのひとつになります。抗生物質は20世紀の化学が生み出した華、これによって多くの病気が治り、人類の寿命も飛躍的に延びました。人類に幸福をもたらした物質といえると思います」と竜田先生。

抗生物質には4大抗生物質群があるが、何とその4種類すべての世界初の全合成に成功したのも竜田先生なのだ。さらに研究を進めることで、より副作用の少ない抗生物質をはじめ、制がん剤・酵素阻害剤・神経作用物質など新薬開発への応用が期待されている。この人類の夢を乗せた研究、そのトップを走っているのが竜田先生なのである。

先生が化学の世界に目が開かれたのは、中学校に入学した時だったという。「ちょうどそのときに、例のDNA2重らせん構造が発表されましてね。それが強い印象になり、理科の先生も『これからは遺伝子だ』というので、直感で化学で生命現象が語れる時代が来ると思いました。いまヒトゲノムの解明がなされ、生体の主要な物質の構造もわかってきました。まさに化学で、そして分子レベルで生命現象が語れる時代になったわけですね」

これからは物理や生物の研究にも、化学の分子・原子レベルの知識が不可欠であるとも語る。

「実践的ナノ化学教育研究拠点」プロジェクト

竜田教授室のある理工学総合センター研究棟
竜田教授室のある理工学総合センター研究棟

竜田先生には早稲田大学の21世紀COEプログラムの拠点リーダーという肩書もある。COEプログラムは大学などの世界のトップレベルにある研究、あるいは人材育成のプロジェクトに国(文部科学省)が助成する制度である。先生がリーダーを務めるのは「実践的ナノ化学教育研究拠点」プロジェクトだ。

「これはナノの化学、つまり非常に微細な世界の実践的な化学的研究をするプロジェクトになります。新材料の創出、強力な機能をもった生理活性物質の合成、磁力をもつ高分子、そしてバイオセンサー・人工臓器・新機能性材料などの開発が研究テーマです。この中にはすでに実用化されているものもあって、成果は出ています」

このプロジェクトには理工学研究科の教員が横断的に結ばれ、それに産業界で活躍しているOBも参加して幅広い人材が集められている。

さらにプロジェクトには新しい人材の育成という目的もあって、ポストドクターや博士・修士課程履修中の人たちも参加している。その数はなんと 100人にものぼる。しかも、これらの人たち全員に給与が支払われているのだ。

学部の学生はプロジェクトへの直接参加はできないが、メンバー教員の研究室入りがかなえば、研究の一端に触れることはできる。また、将来大学院に進めば、プロジェクト参加への道も開かれるわけだ。
「このプロジェクトは2002年度から始まり、5ヵ年計画でやっています。重要なのはその先も継続してやっていけるかどうかです。そのためにも、いいシーズ(種)を出していかなければならないと思っています」
その先とは、つまりいま受験生である君たちの時代ということになる。

化学をめざす高校生たちに贈る言葉

理工学部のある早大大久保キャンパスの全景
理工学部のある早大大久保キャンパスの全景

さて、このへんで本来なら竜田先生の所属する理工学部応用化学科・大学院理工学研究科、あるいは竜田研究室の内容などを紹介するところだが、ここでは取材のあいだに語られた先生の言葉をいくつか紹介してみたい。いずれもインタビューの合間にフッと漏らした言葉の数々だが、これが実に含蓄に富んでいるのだ。

「有機合成の研究はいわば格闘技です。化合物は何も言いませんから、最初は化合物に殴られ通しです。ところが、ある瞬間から相手の性質がわかり、攻守ところを代えて攻めに転ずることになる。その瞬間が楽しくて格闘しているんですね」

「わたしの研究室で研究したことを将来も同じように続けられる人は少ないですね。ここで学んでほしいのは、野球でいう捕球の仕方です。捕球の基本姿勢が正しければ、どんなボールが来ても捕球できます。それを学んでほしい。化学研究の基本的な哲学ですね」

「研究対象は無生物ですが、それだけに研究者が誠心誠意心を込めないと答えは返ってきません。相手からは何も答えてくれませんから、真摯な問いかけが大切になります。それらは普段の人との接し方にもかかわってきます」

「愚直、バカ正直に生きるってことですね。化合物がウソをつくことはありませんが、だまされてもいいから愚直なまでの生き方を貫くことです」

「最初から化学の才能がある人などいません。あらかじめ備わっていると思うのは間違い。継続することで出てくるものです。どんな商売でもこれは同じで、最初からラーメン屋さんになれる才能がある人はいません。それに打ち込むことで、やっと才能になるんです」

「化学から『化楽』へ。音楽が音を楽しむように、化学は変化を楽しむもの。だから化楽なんです」「化学には絶対に失敗がないのです。どんな実験をしても、必ず答えは出てきます。思ったとおりの答えが出ないからといって、それ自体は失敗ではない。その意味では気は楽ですね(笑)」

「化学の醍醐味は、世の中を構成している最小単位の分子を自分の意思で動かすことができるところでしょう。自然にあるものとの闘い、いわば神がつくり出したものとの闘いです。それを動かすことは大変なことです。それができるのは化学をやっている人間だけです」

世界のトッププロフェッサー・竜田先生。その話の端々には、化学に限らず理系分野に進もうとする高校生諸君への示唆があふれている。

こんな生徒に来てほしい

大学で化学をやるのでしたら、まず実験が好きなことですね。それに変化を楽しめる人、何でだろうと疑問に思える人、何かにこだわって持続する執着力をもてる人。そんな人が向いていると思います。

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