- 柳町 時敏 助教授
- 明治大学
文学部 文学科 文芸メディア専攻 やなぎまち・ときさと茨城県出身。1970年東京大学入学。83年同大大学院博士課程退学。専門は、源氏物語を中心とした平安文学の研究。「据え直される過去――源氏物語・読み方ひとつ」(『常葉国文』第9号)など論文多数。
表現者育成を掲げる明治大学「文芸メディア専攻」

- そびえ立つ「リバティタワー」上層階にはすばらしい見晴らしの学食も
2004年、19歳と20歳の2人の新人女流作家が芥川賞を受賞して話題となった。また翌05年の芥川賞でも21歳の作家が候補者として名を連ねた。若い作家の登場が久方振りに文学界・出版界に活気を与え、その熱に後押しされるように作家志望の若者が増えているともいわれる。
そうしたなか明治大学は文学部文学科に新専攻を04年4月立ち上げた。書き手の育成を視野に入れたという「文芸メディア専攻」がそれだ。
「表現者の育成は新専攻のけっこう大きな部分を占めています。カリキュラムでも『書く行為』に力点を置いた科目が用意されていますから」
新専攻立ち上げの中心メンバーである柳町時敏先生はこう語る。ただし、この文芸メディア専攻はマスメディアで活躍する人だけを育成するわけではないともいう。
「自分を表現する――あるいは取材して発表するということがどういうことかを考えてほしいのです。入学当初の多くの学生たちはマスメディアにしか意識をまず向けませんね。しかし、マスメディアはメディアの一部でしかないのです」
そもそもマスメディアで活躍すること以前に、どんな表現者をめざすかが重要なはず――柳町先生はそう強調する。
1年次から始まるゼミ演習で「調査能力」を磨く

- できたばかりの生涯教育棟「アカデミーコモン」
「いわゆるデマの発信にブレーキをかけられるような人材を育てたい。そのためには、何がウソで何が本当なのかを見極める力が必要となります。つまり調査能力を磨かなくてはならないのです」
そのため、文芸メディア専攻ではゼミ形式の演習を1年次から取り入れている。自ら調べ討論を重ねるなかで、おのずと調査方法を習得していくことがねらいとされる。しかも「文学部的エッセンス」を浴びる機会の多いゼミは「文学部的」に学生たちを変えていくことにもなる。
「大学教育というのは、ある意味『洗脳』なんですよ」
冗談めかしつつそう語る柳町先生によれば、調査の仕方や結論の導き方など「文学部的研究手法」を習得することによって徐々に「文学部的な学生」になっていくという。
「たとえば世界が『一色』ではないことに気づく。それは『文学部的な発想』と言っていいでしょう。とことん人間を見つめる。そして、人や社会の持つさまざまな意味を認め、いろいろな『色』があることを知り、自由に物事をとらえていく。それらは文学部の学生としてとても重要です」
「最近になって大学文学部への入学希望者が多少盛り返してきているのは、『カネやモノだけじゃない』という意識が高まってきたからだと思いますよ。人間について考えてもお金にはなりませんし(笑)」
柳町先生は「文学部事情」をそう解説してくれた。
「文学部的な発想」で世の中に働きかけていく
いわゆる実学ではないという理由もあって、文学部は長らく不遇をかこってきた。しかし、市場価値などでは測り切れない「ムダ」が人生を豊かにすることも多い。
1974年当時24歳だった柳町先生は世界中の若者たちとオーケストラを組む旅行に参加し、ウィーンやロンドン・ニューヨーク・ボストン・オタワと演奏旅行に出かけた。楽器演奏の試験を受けて集められた若者たちがいっしょに練習し、各都市で演奏会を開催するツアー。世界的なNGO団体が主催していたため、それなりの金銭援助はあったというが、1ドル360円! まさに学生にとって海外旅行など「夢のまた夢」。そんな時代であった。
お金も時間も実際かかった。事実、この演奏旅行のおかげで先生の大学卒業は1年延びてしまう。それでも柳町先生に後悔などない。
「プロの演奏家になれたわけでもないので、文学部的な『ムダ』な体験といえるかもしれません。でも、その当時は後先なんて考えませんでしたね。とにかく世界中の若者と会ってみたかったし、同じ舞台に立ちたかった。世界的な指揮者であるバーンスタインの指揮で演奏できたのは人生最高の思い出です」
この旅行から戻ったあと柳町先生は、卒論のために読んだ『源氏物語』に深く魅せられ、研究者への道を歩み出していく。ただ現在でも市民オーケストラに所属し、演奏活動は続けているという。
「いまの文学はひたすら内省していくものではありません。『文学部的な発想』というのは、経済とかのレベルではなく別な形で世の中に働き掛けていくものだと考えています。そういう意味では『捨てたもんじゃないぞ文学は』とも思っていますよ」
文芸メディア専攻で学んだ1年間で「文学部的」な視野の広い思考方法に魅了される学生たちが出てきていて楽しみともいう。専門科目が多くなる2年次では、さらに多くの学生が「文学部」色に染まっていくことだろう。
柳町先生自身もまた学生たちをさらに刺激すべく様々な講義計画を立てている。源氏物語を絵巻物の観点から読み解き、「言葉メディア」と「絵画メディア」の関係性についても論じていく予定だ。
こうした刺激を受けつづけた学生のなかから、いずれ一流の表現者が輩出されていくに違いない。そんな可能性を感じさせる柳町先生のお話だった。
こんな生徒に来てほしい
広く文学に興味をもち、表現することに関心をもっている学生に入学してほしいと思っています。また、人間を見つめて人間について考えていく専攻でもあるので、人そのものに興味のある学生の方がいいでしょうね。

