- 村勢 則郎 教授
- 東京電機大学
理工学部 生命工学科 生命工学科長
むらせ・のりお
1974年、東京大学理学部化学科卒。75年に同大大学院農学系研究科博士課程農芸化学専攻修了。農学博士。77年から東京電機大学理工学部の助手を務め、91年に同大教授。2000年より同大理工学部生命工学科学科長に就任。
技術開発一辺倒ではなく偏りない技術者を育てる

- 村勢先生とゼミ生たち。未来を担う「ゼネラリスト」の感覚をもったサイエンティストの卵たちの凛々しい顔が光る
「就職とか受験生の要求に合わせていくというのではなく、これからの社会がどうあるべきか、そのためにはどういう学科であったらよいか。そういう視点から素直に考えて設立した学科です」。村勢則郎先生は、東京電機大学に新設された生命工学科をこう説明してくれた。
たしかにこの学科の構成は、はやりのバイオテクノロジーだけを強調したものではない。たとえば3年次に選択する3つのコースも独特である。
生命活動を分子レベルで探求する「生命化学コース」。環境の変化に対する生物の反応を研究し、環境問題を解決する「環境生命工学コース」。生命物質の特徴を理解し、人工臓器や医療福祉機器などを開発する「生命支援工学コース」。同じ生命工学でありながらも、これら3つのコースの研究分野はかなり異なったものである。
その違いはもちろん卒業後の進路にも影響していく。
「生命科学コース」に進めば、医薬品や化粧品・食品メーカーなどが就職先の候補になる。「環境生命工学コース」に進めば、環境衛生産業や食品メーカー・種苗産業などへの道が開けてくる。そして「生命支援コース」を選択すれば、医療福祉機器メーカーはもちろん製薬・医療品メーカーなども就職先の代表的な候補となるだろう。
現代の技術者は社会をリードしていく

- 村勢先生から親身の指導を受けるゼミ生の真剣な表情と視線が印象に残った
どうしてこれだけ研究分野の広い学科を作ったのだろうか?
「そもそも技術はまずものを作る技術から出発しました。初めに技術があり、それからその技術をどう利用するかが問われていたのです。でも現在は、技術が社会にどのような影響を与えるのかまでも理解しないといけないと思います。現代の技術者はそこまで求められているのです」
「これまで、技術者というのはそれほど社会的なインパクトを持ちませんでした。少なくとも技術者個人が地球の命運を握るような事態にはならなかった。しかしこれからの技術は、人類の生存や地球環境問題に多大な影響を及ぼします」
「だから狭い意味での生命工学に閉じこもっていたのでは、現実に対処できません。広くものを見ることができ、広範な知識を身につけたゼネラリスト的な要素も持ってほしいのです」
クローン問題や臓器移植など現下の話題を考えても、生命倫理観について技術者が問われる時代になってきているのは分かるだろう。自分の研究を進めるだけの研究者はすでに一流ではないのだ。
新設される生命工学科は、こうした背景から「生命」と「環境」に着目し、生命工学を幅広くとらえようとしている。
私たち人間を含め生命は環境がなければ生きていけない。環境も生命があってこそ重要であり、そして生命と環境は物質で結びつけられている。「だから物質を介して『生命』の問題とか『環境』の問題を考える。これを生命工学科の柱としたわけです」
当然、このように研究の幅を広げれば教員の人数も多くなり、ともすれば受験生にイメージが伝わりにくい可能性もある。それでも将来の日本を背負って立つ技術者を育成するため、新しい学科が立ち上げられた。
新設学科といえども基幹科目に怠りなし
だが学科の研究分野をひろげたことで、学生側にも新たなメリットが生まれる。高校教育には存在しない生命工学を広く学んでから、自分の専門を選べることである。「ゼネラリスト」としての感覚を養う1~2年次が、自分の将来を考える時期と重なるわけだ。
しかも生命工学科には、自分の進路を決める手助けとなるようカリキュラム・アドバイザーが置かれている。すでに2003年9月の中旬には、前期の成績についての面談も行なわれた。
「学生1人ひとりに『このままでは2年生になれないかもしれないよ』とか声をかけています。『いたわりの眼差しをもった工学ゼネラリストを目指します』という指針を掲げている以上、学生とのつながりも大切にしています」
生命工学科のカリキュラムでは、物理や化学・生物・数学などの基幹科目も重要視されている。「自然科学系の基礎となるこれらの教科の指導と進級条件はきっちりと整えています」と、村勢先生も断言しているほどだ。
もちろん学生にとっては、やっかいな(?)教科が増えることにもなるが、将来必要になる科目は必ず身につけてもらう。そして教員が学生をフォローする体制も整えていく。カリキュラム・アドバイザーは、そうした大学の教育姿勢の表われでもある。
東京電機大学の生命工学科は本気だ。たしかに「就職や受験に迎合した」だけの新設学科ではない。生命工学科がめざす「生命・医療福祉・環境問題に貢献でき、計測に強い生命工学技術者」に共感できる理系志望の塾生諸君は、東京電機大学の門を叩くことも検討してみてはどうだろうか。
こんな生徒に来てほしい
技術屋にとって一番大切なのは、観察力だと感じています。それが発見につながり、研究のキャリアにつながるからです。
それと物質は常に変化するものだということも分かってほしいですね。作った物質も壊れ、蓄積されていくんだという意識ですね。いま話題になっている環境ホルモンも、物質が時間とともに変化して生物体内に蓄積していったものですから。
観察力をもち、時間軸で物質をとらえられるような人――こんな人は、ぜひ生命工学科に入学してほしいと思います。

