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Good Professor

井原 哲夫

井原 哲夫 教授
慶應義塾大学
商学部

いはら・てつお
1939年、茨城県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、慶應義塾大学大学院商学研究科にて博士課程修了。72年より慶應義塾大学商学部助教授、79年同教授に就任。統計審議会・中央社会保障中央協議会の委員などを歴任。主な著書に『コスト感覚』『ネコ人間の時代』『「豊かさ人間」の時代』『ポスト大企業体制』『「ブランド」を解読する』『サービス・エコノミー』『愛は経済社会を変える』『多選択肢社会を解読する』『400余年ぶりに日本を変える企業革命』『才人企業だけが生き残る』など。このほか、「原さとる」のペンネームでSF小説『地底元年』『海舟未来を行く』などもある。 東洋経済新報社のホームページhttp://www.toyokeizai.co.jp/

サービス経済学研究の足がかりは人間への興味と探求心

井原研究室のある経済学部棟
井原研究室のある経済学部棟
慶應義塾大学の三田キャンパス
慶應義塾大学の三田キャンパス

井原哲夫先生は、慶應義塾大学で「サービス経済学」を教えている。ほかの大学にはない耳慣れない珍しい講義名だ。それもそのはず、いまから20年以上も前に先生自身が提唱しはじめたジャンルだからである。

では、サービス経済学とは何だろう。

サービスと名がつくと、レストランや宿泊施設などサービス業を想像する人が多いだろう。しかし、井原先生が対象とするサービスとはもっといたるところに存在している。例えば、大学などの教育機関は教えるというサービスを、病院は治療するというサービスをそれぞれ提供している。

コンビニエンスストアもそうだ。日用品を多品種そろえ、深夜まで営業する便利さというサービスを提供する。 企業における人事部も業務部も総務部もしかり。人事部は、企業で働く人たちの管理を、業務部は在庫管理や流通管理を、総務部ではあらゆる事務を一括して提供するサービスを行なっているといえる。

1970年代に入り日本の経済成長期が一段落すると、モノがあふれる豊かな時代がやってきた。これに伴い、人々の欲求のかたちも変化してきた。以前は、自動車もテレビも普及しておらず、とにかく他人と同じものを手に入れたいと人々は望んでいた。だがこれらの欲求が満たされると、人々の関心は徐々に「欲しい」より「楽しみたい」「褒められたい」へと移行した。

「いま人々は、とにかく褒められたいという強い欲求を抱いています。他人に評価されたい気持ちが原動力となり、消費を動かすまでになっているのです」と井原先生は言う。
例えばファッションがその好例だ。着飾って街を歩きたいという欲求は、まさに他人に美しさを評価されたい欲望であると同時に、他人に無料で美しい姿を見せるのだから、この欲求が新たな街の魅力を創り出していることになる。

寒い、暑い、おなかがすいた――などの基本的な欲求は、GNPが拡大すれば、どこの社会でもいずれは満たされていく。しかし、褒められたいという欲求が満たされるには、優位に立つ必要があるのだからすべての人が満足することは永久にない。その意味では、永遠に需要として存在し続けることのできる強力な消費の原動力である。

また、褒められたいという欲求には少し異なる形もあるという。それは、「身内が評価されてもうれしい」という感覚だ。

Jリーグのサポーターや野球のファンなどがこの典型にあたる。彼らは、自分の応援するチームを身内とみなし、身内が勝つことに喜びを感じている。自分のひいきのチームが優勝すると、すべてのスポーツ新聞を購入し、何度もスポーツニュースにチャンネルを合わせ、優勝の余韻に酔いしれるファンたちの姿を見たことのある人も多いだろう。あれらはまさしく、身内が評価されたことを喜ぶ心境にほかならない。

そして、この力もまた高い経済効果をもつ。これら従来の経済成長期にはなかった新しい概念を考慮に入れなければ、今後の消費経済は説明できないのだ。

人間が関わるから経済は動く

慶應義塾大学の三田キャンパス
慶應義塾大学の三田キャンパス
オススメの一冊『サービス・エコノミー』(東洋経済新報社)
オススメの一冊『サービス・エコノミー』(東洋経済新報社)

また先生は、これからの社会を「多選択社会」だという。そもそも消費の選択には、タテ選択とヨコ選択という2つの形態がある。従来の日本は、タテ選択の社会であった。食肉ひとつ買うにしても、消費財は並肉・中肉・上肉とランク付けされていた。消費者は、自分の経済状況に合わせて、あるランクから肉を選ぶしかなかった。そこでは、上肉を選べるようになることが万人共通の願いだった。

しかし時代が変わり、人々の所得水準がアップすると、選択肢にヨコ選択が含まれてくる。誰もが上肉を選べるようになった結果、神戸牛・松阪牛・近江牛・米沢牛・前沢牛・オーガニックビーフなど、横一列に多品種が登場した。選ぶことができる選択肢が同一ランク上に大量に並んだ結果、自らの価値基準によって人々が選択する時代=個性化の時代=に突入したのである。
この自分の価値基準を発見することを「自立」と考えることもできると先生は言う。
例えば日本の社会全体が「村」社会といわれ、職場や学校・隣近所でいつも行動を共にしなければならなかった時代があった。このような時代において人々は、趣味ひとつをとっても自ら考える必要は必ずしもなかった。みんなでカラオケやゴルフを行っていればよかったのである。

しかしヨコ選択の時代に入ると、事情は変わってくる。自分は何をしたいのか、自分で価値基準を決めなければ誰もが行動できなくなる。
そこで、広告や宣伝・商品開発の仕方も変化してきている。人々のニーズにこたえないと売れなくなったメーカーは、個別化した多様な商品を開発し差別化して宣伝しはじめた。
このような方法が消費の活性化を促すような時代に変化したのである。
このように、消費経済は時代とともに形を変えて動いていく。なぜなら、経済活動には必ず人間が関わっているからである。

「僕はものぐさなので、先人の文献をていねいに読み、そのうえに学問を積み上げていく研究方法が嫌いだった。だから、いつも新しい理論を自分で作ってしまった。そうすれば、文献を調べなくてもいいと思って……(笑)」

井原先生のなかにあるのは、人間がつくる社会への飽くなき探求心である。人間が動かす社会に対し、好奇心をもって見つめる眼が新しいジャンルを生み出してきた。そして、これからも創造し続けるのだろう。

こんな生徒に来てほしい

■ ゼミ生に望むこと ■
①好奇心が豊かな人
②自分の脳で理解しないと満足できない人
③自分の脳にアンテナを立てられる人
④物事に興味をもって考えられる人

いつでも物事には興味を持ってあたってほしいものです。興味を持たずにいくら勉強しても、自分自身のアンテナを立てることはできません。情報を得るには、アンテナが必要です。そして社会に出たら、アンテナを何本立てられるかが人間の勝負どころになるのです。好奇心を忘れないでください。

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