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Good Professor

安井 至

安井 至 教授
東京大学
生産技術研究所

やすい・いたる
1945年東京生まれ。73年東京大学大学院工業化学科(応用鉱物化学)博士課程修了。同年東京大学工学部助手。75年米国RPI大学博士研究員。79年東京大学生産技術研究所助教授。90年同教授。96年東京大学国際・産学共同研究センター長。99年より現職。主な著作に『市民のための環境学入門』(丸善センター)、『環境と健康』(丸善)などがある。

サイエンスとしての環境科学の定義づけに取り組みたい

安井研究室のメンツたち
安井研究室のメンツたち

東京大学の生産技術研究所は工学系および理学系の大学院教育を行いながら、基礎的研究にとどまらずに、産業界とも連携した科学の総合的研究をめざしている研究所である。それまで東京・六本木にあった施設が、東京大学駒場キャンパスに隣り合う現在の敷地に移されたのは2000年。その威容を誇る建物はまるで近未来の建物でも見るようだ。

その生産技術研究所F棟2階に今回のグッド・プロフェッサー・安井至教授の研究室がある。安井先生の専門は材料化学(無機工業化学)と環境科学。「材料」と「環境」といえば一見交わることはないようにも思われるが、実はこれが大いにつながり合う。そのつながりを聞く前に、材料化学の研究から話してもらった。

「材料についてはセラミックスを中心に研究しています。セラミックスは現在もコンピュータはじめ様々なものに使われていますが、さらに耐久性や機能の向上をねらった高機能性セラミックスの研究ですね。このセラミックスに限らず人類は将来にわたって材料を使っていくわけで、この分野の研究余地はまだまだ残されています」

材料分野では、次世代セラミックスの研究を中心にしているという安井先生。ただ、その研究は具体的な実用化をめざしたものというよりは、もっと大局的な見地からのものらしい。

「この研究から将来のきっかけとなるセラミックス・材料を見つけられたらと思ってやっています。私たちの研究範囲は広くて、たとえば現在の産業のプロセスをコンピュータ・シュミレーションで解析して、メカニズムの原子がどう動いているかなどを知り、より高度なプロセスを構築するというような研究もあります」

高校生にはいささか遥遠な内容であろう。そこで素朴な疑問に戻って、材料化学を学ぶ愉しさについて話してもらった。

「正直なところ、材料化学というのはやってみないとわからないところがあります。コンピュータを使ってどんなに厳密なシュミレーションをしてもわからない部分が残り、最後は“やった者の勝ち”の世界です。結果の予想や想像が厳密にはできない。その意味では、まだまだフロンティアの残された領域だといえます。化学の最先端は予定どおりにはいかない。そこが面白いところだとも言えますね」

一つの正解を求め暗記する高校の学習レベルとは、大いに様相の違う世界でもあるようだ。

材料化学と環境科学とがつながり合う「リスクミニマム」

東京大学生産技術研究所の全景
東京大学生産技術研究所の全景

安井先生のもう一つの専門は環境科学である。一見交わらなさそうな材料化学と環境科学だが、これこそが必然的につながり合う学問分野であると先生は語る。「鉄あるいはセメントでもプラスティックでも、材料をつくるときには“環境負荷”ということを考えます。単純なたとえですが、寿命が2倍の材料をつくり出せば、地球環境への負荷は半分になる計算ですからね。ですから材料の研究をしながら、環境について研究するのはごく自然な流れといえます」

環境について研究すると口で言うのは簡単だが、実際に研究するとなれば、地球規模・全人類規模の問題を扱うことになる。その領域は広大無辺で、果てしない広がりをもつ世界だ。

「地球上の人間活動が地球の環境に負荷を与えます。地球の能力にも当然限界があります。どのような人間活動が環境にどのくらいの負荷を与えるのか、それを定量的にする方法論の検討がいまの私の研究テーマです」地球環境にとって望ましいのは「リスクゼロ」の状態だが、そのためには人類がいまある文明を放棄しなければならないだろう。いまある文明を享受しながら、いかにリスクを軽減して最適な妥協点を見い出すか。その「トータルリスク・ミニマム思想」ともいうべき方法論の構築が、安井先生のめざすところらしい。

「リスクをわずかに軽減したぐらいでは、問題を次世代に先送りしているにすぎません。次世代に犠牲を強いるようなことはやめて、いまの我々との双方にとって最適な道は何なのか、その折り合いのつけ方を研究していることになります。最終的には人類全体の幸せの追求が目的で、限りある地球資源をどう無駄なく平等配分して、現世代・未来世代、また地球上のあらゆる人々にとっての最適な妥協点を見つけるということですね」

先生の話はまた広大無辺に広がっていく。環境科学の分野は茫漠と広がるばかりで、まだサイエンスとしての証明はいまだなされていないのだという。もうそろそろ定義づけるべき時期にきており、ぜひ安井先生自身でそれに取り組んでみたいという。

「マイナスイオン神話」などへの反撃のロジックを啓蒙

安井研究室のある生産技術研究所F棟
安井研究室のある生産技術研究所F棟

安井先生にはもう一つ環境問題についての啓蒙者という役割がある。講演会で語り、インターネットで訴え、雑誌・新聞に書いているのは、一般に「環境にやさしい」とか「健康にいい」と流布されていることが「本当に正しいのか」という疑義である。

たとえば、いま流行りのマイナスイオンの人体への効果は疑問なこと。ある種のミネラルウォーターには水道水以上の危険が孕んでいること。100%の古紙再生が必ずしも環境負荷を低くしていないこと、食品添加物や農薬・発がん性物質に対する誤解……などなど。

「地球環境と人間との関わりを見ていますと、いまの世の中にはおかしいなことが多いですね。健康・清潔ブームもあまりに極端になりすぎています。それらに対する反撃のロジックが必要で、それを市民社会にどう伝えていくかということも私の課題だと思っています」と語る意気軒昂な安井先生なのである。

こんな生徒に来てほしい

■材料化学あるいは環境科学をめざす高校生へ
まず、材料化学の研究は予定どおりにいきませんので、自分で問題を見つけて、自分自身で解けるような訓練をすることですね。環境科学については、いきなり環境について専門的に研究するより、何か一つ別の専門を究めてから取り組んだほうがいいでしょう。環境というのはそれだけ学際的・総合的な判断力が求められる分野なんです。

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