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Good Professor

西脇 与作

西脇 与作 教授
慶應義塾大学
文学部

通信教育部長

にしわき・よさく
1947年新潟県生まれ。69年慶應義塾大学文学部(哲学専攻)卒。76年同大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。76年慶應義塾大学文学部助手。 81年同助教授。81年米ハーバード大学客員研究員。89年より現職。主な著作に『科学の哲学』『現代哲学入門』(ともに慶應義塾大学出版会)『自我と脳』(訳書・新思索社)などがある。

最新サイエンスに寄与する科学哲学とは

西脇研究室がある三田キャンパス「研究室」棟
西脇研究室がある三田キャンパス「研究室」棟
三田名物的樹木・大イチョウも冬枯れていた
三田名物的樹木・大イチョウも冬枯れていた

慶應義塾大学文学部の西脇与作教授の専門は「科学哲学」。科学的事象を哲学的に考察し論証していく分野ということだが、正直あまり耳慣れない学問分野ではある。このあたり先生はこう説明する。

「科学哲学は分析哲学ともいわれ、簡単にいってしまうと“科学のはしため(召使い)なのです(笑)。つまり科学と対峙する関係をとらずに、科学を肯定的にとらえながら、時に発生する問題などについて科学者と同じ地平から哲学的に考察・論証していく研究分野になります」

この科学哲学のカテゴリーとしては、言語やAI(人工知能)・認知科学・自然科学などの研究分野がある。西脇先生自身は、自然科学なかでも生物学と物理学を主要な研究テーマにすえている。そもそも哲学研究の領域での科学哲学はマイナーな存在で、さらに先生と同学の研究者となれば、日本中でも5指に満たないくらい実に希少な存在ということになる。

そんな先生が科学哲学に目を開かれたのは、アメリカの大学に留学していたときのことだった。

「それまでの私の哲学研究は数学が中心で、頭のなかでシステムをつくってはシミュレーションするような抽象的なことばかりを研究していました。次第にそれに窮屈さを感じるようなってきまして、自分の外に実在するもの自体へ関心が移っていき、そこで出会ったのが進化論でした」

以後、西脇先生は進化論のさまざまな概念を明確化する研究に没頭することになる。

「進化論の中核をなす集団遺伝学の理論を中心に置いて、新たな進化モデルを構築しようという試みでした。進化には自然選択はじめ突然変異・集団的移動などの要素があります。それらの要素のかかわり方の違いによって世代交代にどのような影響をするのか、そうしたことを理論化しようとしたのです」

「ところが進化論は、物理学のようにひとつの現象にひとつの理論が対応するようにはなりませんで、あくまで推論の域を出ないのでした」 そうして、この進化論の研究分野全体が停滞することになり、西脇先生も次第に物理学分野の量子力学の研究に移行していく。現在はこちらのほうが研究の中心になっているという。

「量子力学の対象は原子よりもミクロの世界でのことで、とても人は見ることができません。このミクロの世界はどのような構造なのか、そしてどんなメッセージが込められているのか――それらを読み解くのに科学哲学の研究手法が有効となります」

「原子爆弾から半導体まで20世紀の科学発展の優れた道具として量子力学は利用されてきました。現在では、量子コンピューター開発という次世代コンピューターの研究にまでつながっています。こうした研究開発に科学哲学の成果が大きく寄与しているのです」

哲学研究について語る西脇先生は、タバコをくゆらしながら髪を時折かき上げては言葉を紡ぐように話していく。その姿は思索する哲学者のイメージそのものだ。

大学で学ぶ意味とは?教師からノウハウを盗むこと

新装なった慶應義塾大学図書館の偉容
新装なった慶應義塾大学図書館の偉容

慶應義塾大学文学部には17にも及ぶ専攻が用意され、学部生は2年次からそれぞれの専攻に分かれて専門課程を学ぶ。この専攻分けにあたって各専攻とも定員制を敷いておらず、原則的に自分の希望する専攻に進めるようになっている。

このうち哲学専攻に進んでくるのは例年20~25人ほどで、各年次800人の学生を擁する文学部にあって決して人気のある専攻とはいえない。しかし見方を変えると、哲学専攻には7人もの専任教員がいて、20~25人の学生に親身の指導してくれるのであり、まことにもって贅沢な学習・研究環境ともいえる。

文学部のゼミは3・4年次の学生が対象で、西脇ゼミでも例年7~8人ほどの学生を受け入れている。ゼミ生がそれぞれ自由に哲学テーマを立て、卒業論文に向けて研究していくスタイルをとる。その指導方針について西脇先生は次のように語る。

「とにかく自分の頭で考えられる学生を育てたいと思っています。最近の学生の傾向として、いろいろ資料を集めてリポートをまとめることは比較的よくできます。しかし白紙を与えて自分の考えを書かせようとすると、ほとんど何も書けない人が多すぎます。自分の頭で考えるためには、センスとかコツ・経験のようなものが大事となりますが、そうしたことは大学で接する教師からどんどん学び取ってほしい。ですから、学生たちには『教師からノウハウを吸収せよ』と日ごろから言っているんですよ(笑)」

生身の教師から発せられる肉声や所作からは活字メディアやインターネットなどからでは得られない貴重なヒントが隠されている。それこそが大学で学ぶことの意義でもあると強調する西脇先生だ。

学内外を問わず自由に参加受講できる哲学自主講座

いつの世も慶應のシンボル・図書館旧館
いつの世も慶應のシンボル・図書館旧館

最近の大学教授は雑事に追われて忙しいばかりで本来の研究に振り向ける時間が取れないとも嘆く一方で、そんな多忙の中にあって西脇先生は週3回もの哲学の自主講座を開いている。

学内外を問わず一般社会人まで含めて自由に参加受講できる勉強会で、05年度のテーマは「心の哲学――知覚における曖昧さについて」「生物学――進化論論文の講読」「確率・統計の哲学――個別の論文を議論する」の3つである。

「もう10年ほど続けていますが、この会への出席は私自身も毎回楽しみにしています。学部の講義は正しいことを教えなければならないような義務感がありますが、この勉強会では自由に意見の交換ができます。ですから、わたしも他の参加者の発言や論文をこき下ろしたりしますし、ときに本気で怒ったりしています(笑)」

こうして参加自由の自主勉強会だが、その中心はやはり大学院生になるらしい。

「もう少し学部の学生にも参加してほしい気がします。学部生が大学院生と席を並べて学習するような機会は実はあまりないものです。先輩の院生たちの学習ぶりを間近に見て、それを自分の学び方の手本にしてほしいのですが……」

晴れて大学に入学したら、数少ない科学哲学の碵学に親しく学べる貴重な機会でもある西脇先生のこの研究会に参加受講してみるのはどうだろうか。西脇先生は慶大生以外の参加も歓迎している。

こんな生徒に来てほしい

とにかく好奇心を持っている人に期待したいですね。それも幼稚園や小学校低学年時代にもっていた好奇心を今なお忘れないでいるような人がいいです。そうした素朴な好奇心や疑問を持ちつづけられるような人が哲学に向いているともいえます。哲学を学ぶうえで大切なのは、まず自分がワクワクしながら学び考え抜くことです。

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