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Good Professor

難波 成任

難波 成任 教授
東京大学
大学院 農学生命科学研究科

なんば・しげとう
東京都出身。1982年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。85年東京大学農学部助手。89年米コーネル大学客員研究員。92年東京大学農学部助教授。95年同教授。96年同学大学院農学生命科学研究科教授。99年同学大学院新領域創成科学研究科教授。04年より現職。主な著作に『最新植物病理学』(朝倉書店)『植物ウイルスの分子生物学』(学会出版センター)『農学・21世紀への挑戦』(世界文化社)などがある(著作はいずれも共著)。04年マイコプラズマ学会北本賞受賞。

いま「農学」「植物病理学」が熱い!

ファイトプラズマの「生活環図」説明図
ファイトプラズマの「生活環図」説明図
ファイトプラズマ感染で葉化したアジサイ
ファイトプラズマ感染で葉化したアジサイ

とにかく、いま農学系学部が熱いらしい。

「現在の農学系の研究分野は非常に間口が広く複合的になってきまして、研究内容もさらに奥深いものになっています。

たとえば①経済学(農業経済学)②工学(農業工学)③理学(生産・環境や農芸化学)④医学(獣医学)等、あらゆる学問領域を包括した農学部はいわば〝ミニユニバーシティ〟であり、同時に最先端の知識が動員されるのが現在の農学なのです。こうしたことは他の領域にはあまり見られない農学系の特徴でしょうね」

こう語るのは東京大学大学院農学生命科学研究科(農学部)教授の難波成任先生だ。21世紀の人類と地球にとって食糧と環境の問題は最重要な課題と強調する。語られる内容もさることながら、研究に懸ける情熱がこちらに伝わってくるようで、その語り口はひたすら熱いそんな難波先生の専門は「植物病理学」。さらに06年春で開設100年を迎える「植物病理学研究室」の主任教授をも務める。世界で最初に開設された植物病理学研究室は、植物(農作物)の病気について植物・微生物・昆虫の相互作用に着目した研究を推進してきた。

「ファイトプラズマ研究」の最先端拠点

難波研究室がある東京大学農学部3号館
難波研究室がある東京大学農学部3号館

それらのうち難波先生がいま研究テーマにしているのは「植物ウイルス」と「ファイトプラズマ」の研究。この分野の研究では世界的な研究者と目され、とくにファイトプラズマの研究ではトップリーダーとして他の追随を許さない。

「ファイトプラズマは、昆虫が媒介する微生物です。感染した植物の成長を抑制したり生殖器官(花)を変異(葉化)させるなどの作用があって、農作物に大きな被害をもたらしています。しかしファイトプラズマは最も小さな生命体のひとつで非常に小さくなかなか培養することができず、その解明はこれまで困難を窮めていました」

その難関を乗り越えて、ファイトプラズマが究極まで遺伝子を捨て去った「最少遺伝子の生物」であることを突き止め、その全ゲノム情報の解読にも成功して科学雑誌『ネイチャー』で「究極の〝怠け者〟細菌」の発見者として紹介されたのが難波先生なのだ。さらに植物ウイルスについてもたった一塩基の違いで植物に生じる病徴を全く変えてしまうことを明らかに解明したのも先生の研究室であり、いずれも世界初の快挙となった。

「ファイトプラズマや植物ウイルスは植物に寄生して害を及ぼしますから、その対策を考えねばなりません。しかしその一方で、それらの機能をうまく利用すれば新しい品種をつくり出すことも可能で、そうした研究も同時に進めています」

実際にウイルスによって蛍光を発する植物や、ファイトプラズマによって緑色となったアジサイの花などがすでに出現している。今この分野は世界中の研究者がしのぎを削って競い合う状況なのだ。

難波先生の研究室でも、農学関係の研究者はもちろん工学・理学の研究者や他の大学・研究機関の研究者までも動員され、連日のように白熱した議論を闘わせている。まさに農学研究の熱さが伝わってくる最先端の現場、それこそが難波研究室なのだ。

最先端レベルの研究には失敗が付きもの

農学バイオ系のあこがれ・東大農学部正門
農学バイオ系のあこがれ・東大農学部正門

東京大学農学部で学部4年次になると、各研究室の配属になってそれぞれ卒業研究に携わる。難波先生の研究室入りを希望する学生は当然ながら多いが、定員3人だけの超狭き門だ。

3人の学部生は研究室内に複数設けられた研究チームにそれぞれ参加し、難波先生や先輩大学院生の指導を受けながら各自の卒業研究に取り組むことになる。その学生指導について難波先生は次のように語る。 「最先端レベルの研究や実験には失敗が付きものといえます。なぜ失敗したのかをその都度しっかり分析しておくことが重要です。ある意味では実験に成功するよりも重要な気すらします。さらに、それらの失敗を自分ひとりの中に留めておかないで、周囲の研究者仲間と徹底的にディスカッションすることが必要です。そこから新しい発想が生み出されたりしますからね」

続いて難波先生は人生哲学の持論を展開してくれた。

「よく、自分は研究者向きで会社員には向かないとか、あるいはその逆のことを言う人がいますよね。そういう考え方にわたしは反対です。研究がどんどんできる人であれば他のどんな分野に行っても有能なはずです。消去法は受け身の姿勢にすぎません。何事にも自信をもって取り組むことが大切です」

「そして、カネや地位・名誉を求めて仕事や研究に取り組んではいけません。そうしたことは結果として付いてくるべきもので、初めから追いかけるものではありません」

世界のトップリーダーの口から語られると、こうした言葉も説得力をもって心に訴えてくる。

反響を呼ぶ「植物病院」ネットワーク構想

豊富な樹木が印象的な農学部キャンパス

さて06年4月から東京大学農学部内に「植物医科学研究室」が開設されることになっており、注目の大プロジェクトとして脚光を浴びている。そして、その初代教授に難波先生が就任(兼務)することになる。

「ここは要するに『植物の病院』です。世界中の食糧の12%が毎年この〝病気〟で失われているといわれ、これはちょうど世界中で飢餓に苦しむ人口8億人分の食糧に相当します。こうした損失を防ぐために、植物の病気を診断・治療し予防法を広めるための〝病院〟ですね。病院ですから医師が必要となります。専門の『植物医』の養成もして、将来的には植物病院のネットワーク化を構想しています」

この「植物病院」の試みは世界初のことで、この計画が発表されたときから各界に大きな反響を呼んでいる。大学によっては、この構想に沿った新学科の開設準備を進めているところもあるという。

最後に、現役高校生諸君に向けての難波先生のアドバイスを紹介しておこう。

「みなさんの当面の悩みといえば当然ながら大学受験でしょうが、これも長い人生のうちのひとつの試練ですから、どうか真っ正面からぶつかってもらいたいですね。ただ、この壁を乗り越えても終わりではなく、これから先の人生にはいくつもの壁が次々と立ちあらわれてきます。まずは最初の壁である受験に対して逃げないできちんと立ち向かうこと。それが将来幾度となくあらわれる壁を乗り越えるエネルギーの源にもなり得ますからね」

最後まで熱い口調で語ってくれた難波先生であった。おそらく自身の研究や講義もこうした熱気で日々立ち向かい続けているのだろう。

こんな生徒に来てほしい

できれば大学に入るまでに自分が向かおうとしている方向性だけでも見定めて来てほしいですね。そして、自分で考えて行動し発言できるような積極性も失わないでいてほしい。さらに農学部をめざす人としては、自然の諸現象にまず関心があって、その自然の仕組みを解くことに興味をもっていること――これらが大前提となります。

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