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Good Professor

林 佳世子

林 佳世子 教授
東京外国語大学
外国語学部

はやし・かよこ
1958年山口県生まれ。81年お茶の水女子大学文教育学部史学科卒。88年東京大学大学院人文科学研究科博士課程(東洋史学専攻)退学。88年東京大学東洋文化研究所助手。93年東京外国語大学外国語学部講師。96年同助教授。05年より現職。主な著作に『オスマン帝国の時代』(単著)『世界各国史9西アジア史Ⅱ』(共著・ともに山川出版社)『イスラム都市研究』(共著・東京大学出版会)などがある。なお「東京外国語大学中東イスラーム研究教育プロジェクト」のWebサイトアドレスはコチラ →http://www.tufs.ac.jp/common/prmeis/

イスラームを知らずに世界を語るな

東京外大正面入口。塀のないのが特徴
東京外大正面入口。塀のないのが特徴
林研究室のある「研究講義」棟
林研究室のある「研究講義」棟

東京外国語大学「中東イスラーム研究教育プロジェクト」が05年に開設されて注目を浴びている。イスラーム世界の政治・社会・文化について専門家による高度な共同研究をめざす大プロジェクトの副代表を務めるのが、今回のグッドプロフェッサー・林佳世子先生だ。まずは同プロジェクトについて話してもらおう。

「21世紀早々の世界の人々にとって、中近東のみならず広くイスラーム世界で何が起こっているのかを理解することはとても重要な課題となってきました。イスラーム世界で暮らす人々が何を考えどんな発言をしているのか?それらイスラーム世界の声にきちんと耳を傾けて分析研究し正しく理解していく――そのための研究プロジェクトということになります」

この中東イスラーム研究教育プロジェクトの特徴は、大学内だけの研究にとどまらず、その成果をインターネット上のWebサイトや公開講座・シンポジウムなどを通じ広く一般にも公開していることだ。

「プロジェクトの一環で、イスラームを代表する新聞7紙の主要な記事を和訳してインターネット上でWeb発信しています。それらを読んでもらえれば、イスラームの世界にも多様な意見や考え方があって決して一枚岩でないことが分かるはずです」

始まったばかりのビッグプロジェクトだが、日本を代表する外国語大ならではの研究テーマだけに今後の研究成果に各方面からの期待が寄せられている。

日本の大学では最初の「トルコ語専攻」

晩秋のある日の府中キャンパス
晩秋のある日の府中キャンパス

さて、林先生自身の専門は「トルコ研究」。大学ではトルコ語も教えている。26コースにも及ぶ外国語専攻(日本語専攻も含む)から東京外大外国語学部は構成されるが、そのうちトルコ語は一番新しくできた専攻とのこと。同大トルコ語専攻の立ち上げには林先生もかかわったという。

「トルコ語専攻が始まったのは93年ですが、トルコ語言語教育を専門にする専門家は日本には当時おりませんでした。トルコに留学経験があってトルコ語が得意なトルコ研究者3人が赴任し、それこそカリキュラムや教科書づくりのようなところから手探りの試行錯誤で始まりました」

そう笑いながら語る林先生だが、専門的にトルコ語を教えている国内の大学機関はその当時ほかになく、手本にするもののない中での専攻立ち上げは並大抵の苦労ではなかったようだ。その後トルコからネイティブスピーカーの先生を招聘する制度なども整い、トルコ語専攻としての形が徐々に整ってきたと語る。

東外大では1・2年次にそれぞれ選択した外国語専攻を徹底的に学んで身に付ける。そして3・4年次にその習得した外国語を使って人文系・社会科学系の研究テーマから各自テーマを見つけて研究していくスタイルがとられる。

「言語を学ぶということ自体はスキルを習得することにすぎません。わたしたち東京外大では、むしろ習得した言語を使って何ができるのかに力点を置いていまして、それが大きな特徴になっていますね」

このことはトルコ語専攻とて同じで、あらためて林先生は次のように説明してくれた。

「トルコ語の場合ほとんどの学生にとって初習の言語となります。でもローマ字表記であったり、文法の構造が日本語に似ていることなどもあって、比較的入りやすい言語でもあるのです。そのため1年次の1学期に勢いをつけて集中的に学んでもらうようにしています。すると2学期にもなれば平易な文章なら大半の学生が読みこなせるようになっていますよ」

「日本社会でのトルコ語へのニーズは今のところ限られた分野にとどまっています。しかし中央アジアから西アジアについて語るときには外せない重要な言語なのです。また、ヨーロッパのトルコ系移民やEUへの加盟問題などもあり、ヨーロッパを知るうえでも必要な言語のひとつになりつつあります。昨今のイラク情勢をはじめ世界から注目されている中近東地域ですが、現地の意見を現地のことばで聞いて世界に向けて発信できる人材というのはとても貴重な存在ということになります」

外大学生たちの夢をかなえてあげたい

晩秋のある日の府中キャンパス
晩秋のある日の府中キャンパス

東京外大のゼミ演習は3年次の学生からで、まさに1・2年次に習得した言語を使って何をするのかを見極めるための機会ともいえる。林ゼミのテーマは「トルコ文化研究入門」。その指導方針については次のように語る。

「卒論を含めて論文やリポートを書くときはトルコ語資料を使うことを必要条件にしています。英語やフランス語などの資料と違ってトルコ語の資料を読める研究者自体が少ないですから、たとえリポートのための資料であってもその資料の日本初の紹介になる可能性すらあります。そんなことを考えながら研究すると楽しくなってくるでしょう」

大学ではトルコ史やトルコ語を中心に教えている林先生だが、本来の研究テーマは「オスマン朝時代を中心とした西アジア史」である。

「わたし自身はイスラーム文化圏の前近代の『宗教寄進制度』についての研究を長年してきました。イスラーム世界では、モスクやバザール(市場)・居住地域の配置などの街づくりのあり方がこの宗教寄進制度に大きく規定されてきました。これはイスラーム世界に独特の財産権・所有権にかかわるもので、この制度を研究することでイスラーム世界が他の世界とは違ういろいろな特徴が見えてくるのです」

一見こうした研究は地味なテーマだが、現在のイスラーム世界の基盤を理解する上では欠かせないという。そして自身のライフワークだけに、焦らずじっくり研究を続けていきたいとも語る。そして最後に林先生は次のような話で締めくくってくれた。

「東京外国語大学で学ぶ学生の多くは外国の国々や外国の人々とかかわる仕事を将来したいと考えているはずです。その夢をかなえるためのバックアップをできるだけしてあげたいと思っています」

とても人間味あふれる懐の深い先生との印象を受けた。

こんな生徒に来てほしい

ますますイスラーム問題がわからないと世界情勢を語れない時代になってきました。トルコ語をふくむ中東の言語を学ぼうという人はそうした問題に関心の高い人だろうと期待しています。新たな言語を習得するということは、その地域の人々と直接コミュニケーションがとれて生の意見が聞けるということです。何事においてもコミュニケーションがまず基本になりますから、英語以外の違った外国語を習得することは素晴らしいことなのです。

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