- 池崎 喜美恵 教授
- 東京学芸大学
生活科学講座 いけざき・きみえ
1954年神奈川県生まれ。76年横浜国立大学教育学部卒。79年東京学芸大学大学院修士課程修了(家政教育専攻)。高校教員をへて81年大分大学講師。 85年東京学芸大学講師。97年同助教授。04年より現職。主な著作に『家庭科教育』(共著・学文社)『新訂小学校家庭科授業研究』(教育出版)『小学校家庭科の研究 三訂版』(前著とも分担執筆・学芸図書)などがある。
人間生活への学際的アプローチとしての「家庭科」

- 池崎研究室がある総合教育学研究棟3号館
東京学芸大学の生活科学講座家庭科教育学分野は小学校から高校までの家庭科教員を養成する講座。今回お訪ねした池崎喜美恵教授はここで教鞭をとるグッドプロフェッサーだ。
「家庭科教室の学生定員は24人で、教員12人が指導にあたっています。学生数に対して教員数が多いのは、家庭科を含む生活科学が非常に広い範囲に及ぶからです。食物から被服・住居・家庭経済・福祉・家族関係・家庭科教育まで各専門分野にそれぞれ教員がいますから」
さらに実験や実習が多いのも家庭科教育室の特徴。池崎先生自身はそれら全てを統合した家庭科教育の実践について指導をしている。
「範囲がとても広く複雑な人間生活が学問対象ですから学際的に学ぶことになります。学校の先生に将来ならなくとも自身の生活に還元できることばかりですから、家庭科を学ぶ意義はますます大きいと思います」。
家庭科未習の帰国子女へのケア

- 東京学芸大学正門に続く桜並木
そう語る池崎先生が専門的に研究しているテーマは、諸外国にある日本人学校で行なわれている家庭科教育と日本のそれとの比較研究だ。ますます国際化・グローバル化が進展するなか非常に興味深いテーマであるが、実はこの研究をしている研究者は先生だけなのだ。
「アメリカに始まりシンガポールや台湾・マレーシア、最近ではフランス・イギリス・上海など世界各地の日本人学校を研究対象にしています。現地の日本人学校を訪ねて、授業の様子を見学したりアンケート調査などをしています」
同じ日本人学校の家庭科学習といっても、その国々の国情や地域性によって特徴があるという。研究はまだ途上だが、その研究成果に大きな期待が寄せられている。
一方、海外からの帰国児童・生徒に対する家庭科教育のあり方も池崎先生のもうひとつの研究テーマだ。これも今のところ先生が唯一の研究者だという。
「日本人学校で学んできた帰国子女はまだいいのですが、国によっては家庭科学習を全然教えていないところもあります。そうした国の現地校で学んできた児童・生徒が帰国していきなり針と糸を持たされたり包丁を持たされたりしたら面食らうだけですからね。そうした子をどのようにケアしていけばいいかについても研究しています」
異文化のなかで育ってきた子たちが帰国したとき、どのようにすれば日本の生活文化になじめるのか?また異文化体験をした帰国子女が交じることで、家庭科教育における他の児童・生徒たちに及ぼす影響や変化にはどんなものがあるのか?そうしたことについても研究していきたいと抱負を語る。
家庭科を人に教えるということ

- 初春の小金井キャンパス全景
東京学芸大学家庭科教室の学生は、3年次の後期から本格的に各教員の研究室の所属となって卒業論文研究の準備に入る。恵まれた国立大学の環境もあいまって、所属する研究室の決め方は各学生の希望によってほぼ決められるという。池崎研究室の06年度の受け入れ学生はなんと2人だ。
「わたしの研究室では学生さんそれぞれにとって一番関心のある問題について研究して卒論に仕上げてもらうようにしています。研究テーマは何を選んでもかまいません。ただ、どの研究も教育にかかわる問題であることは条件としています」
教育関連といっても、生活全般を扱う家庭科分野の研究テーマは広大だ。ちなみに最近数年の卒論タイトルをちょっと見せてもらうと、「スローフード」「帰国生徒」「女性のライフスタイル」「NIE(新聞の教育利用)」等々――その表題には魅力的なキーワードが次々と並ぶ。
「人間の生活というのは、非常に幅があって奥の深いものです。その生活について教える家庭科の教員を将来めざすには、知識だけでなく技能も身に付けていなくてはなりません。しかも、それらについて完全に理解していないと人に教えることなど到底できません。そうした心構えを学生にはよく言っています」
学生たちへの指導方針について池崎先生はそう語ってくれた。そして、幅広くいろいろなことに興味をもつことが大切と強調する。
家庭科を学ぶ男子学生にもエール
家庭科教室を卒業した学生の大半は家庭科教員を志望する。しかし必ずしも教員に進む以外に道はないと限定することもない。池崎研究室の卒業生にもクッキングスクールに就職してケーキづくりを教えたり、旅行代理店に就職した人も過去いるそうだ。
「数は少ないですが教員の道に進まない卒業生もいます。家庭科教育分野では自然科学・社会科学・人文科学など広く学びますから、一般の企業などに就職しても職場のリーダーとして活躍する人も多いようです」
学際的に学ぶことで視野の広い人材に育つからだろうと池崎先生は分析する。最後にトピックスをもうひとつ。家庭科教育学分野の定員は24人だが、近年このなかに毎年1人から2人、学年によっては7人もの男子学生が交じるようになってきたという。
「家庭科教員イコール女性教員――という時代ではなくなってきています。こういう場にわざわざ飛び込んでくるくらいの男子ですから、とても積極的で女子学生ともうまく調和をとりながら仲良くやってくれています。ただ、おしなべて男子学生は実技の面とくに被服の縫製などを苦手にしている人が多いようです (笑)。そのあたりは持ち前の積極性で乗り切ってほしいですね」
学生たちを見守る目にも池崎先生のやさしさと思いやりが溢れているのは間違いない。さらに、あえて同分野で学ぼうとする男子学生諸君にもエールを送っておこう。
こんな生徒に来てほしい
ここで学ぶ学生さんのほとんどの方は将来教員になる希望をもって来られるわけですから、その自覚を強くもって来てほしいですね。それで大学に入りましたら、「生活する」そのことの意味をよく考えて、自立した一個人としても大きく成長してほしいと思います。

