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Good Professor

羽場 久美子

羽場 久美子 教授
青山学院大学
国際政治経済学部

はば・くみこ津田塾大学大学院国際関係学研究科博士課程修了(学術博士)。1978~80年ハンガリー科学アカデミー歴史学研究所に留学後、法政大学助教授・教授をへて現職。専攻は「拡大EU」「国際政治史」「中・東欧政治」。94年からハンガリー科学アカデミー、95年から英ロンドン大学にて各1年、04年仏ソルボンヌ大学にて春夏短期に客員研究員を務めた。『拡大ヨーロッパの挑戦』(中央公論社)『ヨーロッパの東方拡大』『拡大するヨーロッパ中欧の模索』(岩波書店)『グローバリゼーションと欧州拡大』(お茶の水書房)など著書多数。ホームページはこちら→http://side.parallel.jp/hb/


※記事は教授が法政大学社会学部ご在職中にインタビューさせて頂いた内容です。

涙の合宿を経験しゼミ生は世界に羽ばたく

ハンガリーとスロヴァキア国境のドナウ川の橋の上にて
ハンガリーとスロヴァキア国境のドナウ川の橋の上にて

ヨーロッパの政治が分かりにくいと感じたことはないだろうか?アメリカの政治状況なら多少理解できる。ところがヨーロッパとなるといきなり難しくなり、重大な政策決定の因果関係すらつかめなくなる。歴史や文化など基礎知識が欠けているからだろうと多くの人が思い込んでいるのではなかろうか。

じつは筆者もそう思っていた。ところが実はそうとも言えないようなのだ。なかなか新聞で理解できなかったフランスでの欧州憲法否決のからくりを羽場先生は非常に分かりやすく短時間で解説してくれる。なぜか完全に理解できてしまったのだ。まるで魔法にかかったように。鮮やかな説明に驚いていると、先生はにこやかな顔で教えてくれた。

「日本の欧州分析はどうしても各国の利害関係を反映した分析になります。また報道も、英仏独など欧州大国のエキスパートが記事を書くケースが多いのです。その結果、視点が一面的になることが少なくありません。イラク戦争に参戦したイギリスでも世論が真っ二つに割れ、労働党そのものの意見も集約できなかったことなどは日本になかなか伝わってこなかったですよね」 参議院の調査会や経団連の勉強会にEUや欧州の専門家として呼ばれるのもうなずける。こうした分かりやすい解説の秘訣は羽場先生の専門分野とも関係がある。学生時代から、大国に翻弄される東欧諸国を勉強していたというのだ。

「旧来ならってきた大国中心の国際関係を違う視点から見た時どのように見えるかという認識の転換が非常におもしろかったのです。たとえばナチス・ドイツが小国に勢力を拡大した背景には周辺国の余剰労働者の受け入れや補助金の支給など面倒見のよさがあり、イデオロギーを警戒しても経済面での拡大には抗えませんでした。他方フランスは、第3共和制などシステムや理念としては欧州の模範となったが、周辺国のために身を挺して普遍理念を守るという行動はとりませんでした。むしろミュンヘン協定の宥和政策にも見られるように、決定的なところでは国際関係上の平和を守るために小国を犠牲にしてしまった。それが現在まで『ミュンヘンのトラウマ』として東の小国の西欧不信となっています。これは安全保障で東欧がアメリカの軍事力に依存する傾向ともつながっています。小国からの視点を加味することで、現実の国際政治の背景が多面的に理解できるのです」

言うまでもなくヨーロッパには大国もあれば小国もある。その各国のパワーバランスによって政治が動いていく。つまりヨーロッパを理解するためには小国を含めた全体の動きに目配りしつつ、重要な情報を的確に抽出する必要がある。この情報の質とバランスが際立っているからこそ羽場先生の解説は理解しやすいのであろう。

好奇心を刺激して引き出される潜在能力

05年度卒業生たち。笑顔からゼミの雰囲気が伝わってくる
05年度卒業生たち。笑顔からゼミの雰囲気が伝わってくる

ただし大学のゼミ演習においては羽場先生はただ解説するわけではない。

「法政大学の学生は好奇心旺盛で非常に高い能力を秘めています。彼らの問題意識を掘り起こしてあげると、どんどん伸びていくのです。ですから文献講読に加えて国際問題に関して3人以上で関心を共有できればサブゼミを作れるようにし、学生自身がテーマを決め並行して勉強していくシステムをとっています」

文献講読スタイルにして羽場先生が解説するなら、ある意味ゼミは運営しやすいかもしれない。しかし学生たちの好奇心を焚き付けることにむしろ先生は力を注ぐ。イラク問題・中国台湾問題からフランスのナショナリズムなど学生自らが決めたさまざまなテーマの重要文献を教え、春夏の休みに現地に行くように指導し、夏冬の合宿で研究成果を発表させる。

「ゼミ合宿ではみんな寝ずに議論します。合宿が終わると男子も女子も研究をまとめ上げた達成感にみんな泣くのですよ。『勉強ってこんなに面白かったのか』とよく言われます」

本当にうれしそうにほほ笑んで羽場先生はそう語った。ゼミに触発された学生の多くは、羽場ゼミのスローガンどおり卒業後「世界に羽ばたく」という。国内外の大学院をはじめ世界銀行・米州銀行やJICA(国際協力機構)・ユネスコなどに入り、国際問題の解決に向けて働く卒業生もいる。読売・NHK・毎日など国際報道への就職も多い。羽場先生の点火した好奇心の火が大きく育っている結果だ

理想と現実が屹立する欧州外交

ゼミ合宿のひとコマ。これから夜を徹した勉強に突入
ゼミ合宿のひとコマ。これから夜を徹した勉強に突入

羽場先生のゼミについてもうひとつ付け加えておきたいことがある。それは時代とのマッチングだ。

イラク戦争に対してフランスとドイツが強硬に反対したり、欧州憲法条約が国民投票によって拒否されたり、フランス労働者のデモが欧州を揺るがしている報道を覚えている塾生も少なくないだろう。

じつは羽場先生の専門のひとつであるEUは世界中で非常に大きな役割を近年果たすようになってきた。統一通貨であるユーロの力強さもさることながら、軍事主導のアメリカの世界戦略に対抗して多様性・寛容性そして対話に基づく「多国協調主義」の世界戦略が「国際規範」として世界から注目を集めている。さらには「経済的失敗こそがテロや世界の脅威・暴力的紛争と結び付く」として、テロなど安全保障に対する脅威に対して貧困の解決と経済発展を重視することを高らかにうたった「ソラナ・ペーパー」(欧州安全保障戦略)は国連の「人間の安全保障」と結んで世界中で評価された。

9・11以降、駆り立てられるように泥沼の戦争に向かっていった米英と比べどちらが世界の共感を集めているかは言うまでもないだろう。だが、これらの宣言が理想的すぎると疑問に思う人もいるかもしれない。その答えとして羽場先生はおもしろい話を教えてくれた。

「フランスに滞在中にソルボンヌ大学の教授であるポーランド出身のユダヤ人の方が突然わたしに質問したのです。『なぜ日本人と中国人の首脳は南京で抱き合うことをしないのか?』と。『我々はユダヤ人が600万人殺されたアウシュヴィッツで独仏ポーランドの首脳がつねに抱き合っている。そうすることによって我々は繁栄と発展を勝ち得てきたのです』というわけです。しかし『抱き合うからといって許しているわけではありませんがね』とその教授は笑いましたが」

こうしたことが欧州流のしたたかな外交であり、理想主義だけで終わらない現実的な側面でもある。国際関係をきちんと勉強したいなら、これからますます注目を浴びることになるEUについて羽場ゼミで学んでほしい。そこには理想の世界戦略も現実の外交もある。必ず将来の糧になるはずだ。

こんな生徒に来てほしい

知的好奇心の旺盛な学生さんですね。それから行動力のある人。ゼミに入ってくる時点での知識量は問いません。世界の諸問題についてどれだけ痛みと共感を感じられるかが重要なのです。問題はそこから始まるのです。

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