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Good Professor

緒方 俊雄

緒方 俊雄 教授
中央大学
経済学部

おがた・としお1945年神奈川県生まれ。鎌倉学園高校在学中に野球部に所属し甲子園出場を果たす(8打数3安打!)。中央大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学。著書に『近代経済学の底流:マーシャル・ケインズ・カレツキ』(中大生協出版局)など。生態経済学を応用した新しい経済の形を「アジア地球環境プロジェクト」において模索中。そのWebサイトアドレスはコチラ → http://ogata-lab.com および http://ogata-lab.tv

「経済系」と「生態系」の融合をめざす生態経済学

ある夏の日の中央大学多摩キャンパス全景
ある夏の日の中央大学多摩キャンパス全景

新聞・雑誌などでも「持続可能な……」「環境に優しい……」「ロハスな……」などというフレーズをよく耳にするようになった。たいていは開発・発展や生活といったキーワードが「……」に入る文脈で使われることが多い。

中国やインドなど10億人規模の新興大国が国内総生産(GDP)年間10%以上の高度成長を果たすようになった21世紀初頭のいま、このフレーズの意味するところはますます現実みを増す。たとえば中国人がアメリカ人と同じようにステーキを日常的に食べるとすると、肉牛を育てるために全世界の飼料を集めても必要量にはるかに及ばない試算となるという。

ところで持続可能な開発や発展を目指すべきというテーマ自体は経済・政策論議としてこれまでも盛んに論じられてきたはずではないのか?こんな自明なことがそれほどまでに軽視されてきたとでも言うのか?ところが、少なくとも経済学分野ではほとんど重視されてこなかった――そう断ずるのは今回登場願う中央大学経済学部の緒方俊雄先生だ。

「これまでの伝統的な経済学の考え方では生産者と消費者の関係が主なテーマとされてきました。モノ(商品)をつくる生産者は最小のコストで最大の利潤を得ることだけを考える。消費者はいかに最小のコストで消費満足を得るかだけを考える。この両者が最大の満足を得るところで需要と供給が均衡することで自由な市場経済を通じて社会が発展するはずというわけですね」

前々世紀の産業革命以後ずっと石炭・石油エネルギーをベースに経済発展を人類は遂げてきた。しかし地球上のさまざまな化石エネルギー資源が枯渇する日が具体的なタイムテーブルとして刻々と近づくなか、いまや前世紀的な楽観論を信ずる経済学者はむしろ少数派になりつつあるという。

既存経済学に欠如する「持続可能性」という視点

学生諸君の意欲があふれ出る緒方ゼミのある日
学生諸君の意欲があふれ出る緒方ゼミのある日

生産者(あるいは資本家)と消費者(あるいは労働者)が共に満足する経済・社会システムをめざしてきた既存の経済発展モデルは種々ある。しかし従来型のほとんどの経済発展モデルに決定的に欠ける大切な視点、それこそが「持続可能かどうか」という地球生態系を意識した視点なのだ。

そこで緒方先生がいま起死回生的に取り組んでいるという「生態経済学」とはどのような学問なのだろう? 聞き慣れないこの学問分野をひと言で定義すれば、経済発展と地球環境の維持を両立させる仕組みをつくり出そうとする現代経済学の新しいモデルのことを指す。

「いままで経済学では生産者と消費者間の満足を追及することが主な課題とされてきました。たしかに資本主義経済体制において市場経済が加熱することはある程度必要ですが、もはや人類(生産者・消費者にかかわらず)の利益のみを追求する過剰な開発・活動が地球生態系を危機に至らしめるのは明らかです」

極端なことをいえば、これまでは空気や水がいかに汚れようが廃棄物が大量に排出されようが、圧倒的少数者(公害被害者など当事者)を除けば学問的テーマにも社会問題にすらならなかった。そういう多数派の人々(とくに先進諸国の国民)の暗黙の意識が宇宙船地球号の「生態的寿命」を異常なスピードで縮める結果になってしまった。

開発第一主義の既存経済モデルは南北間の格差をますます拡大させた。それとともに地球が誕生して46億年余もの間ほぼ維持されてきた生態的環境システムがこの30年間で激変してしまった。酸素供給源である森林は乱伐され、二酸化炭素・オゾンの排出量増大も相まっての地球温暖化現象はヒマラヤや極地の氷河を加速度的に溶かし、急速な海面の上昇によって海洋諸国は文字どおり存亡の瀬戸際に立ちつつある。

なおここに至っても経済学の主流とは到底いえない生態経済学だが、しかし、近いうちに主流にならざるを得ないだろうと緒方先生は予言する。生物としてのヒトの存続さえもが崩壊の兆しを見せつつあるいま、経済学に限らずあらゆる学問・科学は大幅な修正・対応を迫られるはずという。

「原生林など手付かずの自然環境は究極の循環型生態系システムなのです。ゴミが出ることもなければ空気が汚れることもない。だからこそ今まで地球は存続することができました。もはや現在の生活レベルを維持しつつ環境破壊のまったくない純粋な自然状態に戻せというのは不可能でしょう。しかし発展の方向を修正することは可能なはず。たとえばダムを建造する計画があるときでも、直接的利益の視点のみでなく、ダム建設によってどのくらい周りの環境をロスさせるのかを先に考えるようにすべきなのです」

外国人研究者・学生も交えた徹底的なゼミ討論

緒方先生によるゼミ演習の特徴のひとつに「アジア・インターンシップ」がある。毎年3年次のゼミ生がアジアに赴き、現地の大学生と交流しながら合同で調査・討論を重ねる。2004年にはベトナム戦争時の米軍による枯れ葉剤作戦でダメージを負った山間地域の農村や海岸地域のマングローブ林の再生現場を舞台に現地調査が行なわれた。

「森林を再生するより住宅地を造成して家賃収入を得たほうが良いのではないかという意見も中にはありました。しかし自然林やマングローブ林を含む豊かな生態系が住宅地建設やエビ養殖場開発によって破壊され、やがては地域全体が荒廃地になりかねないことも忘れてはいけません。どうすれば環境ロスを最小に食い止めながら開発と環境保全の共生をはかることができるのか?そうしたことを考えるために、綿密な事前調査と多様な視点からの意見交換が行なわれるべきなのです」

ベトナムの大学生たちは、日本の学生同士ではあり得ないほどシビアで突っ込んだ質問や意見をどんどんぶつけてくる。あるベトナム学生からは「日本が自国の森林資源を守れば守るほどそれだけ私の国の森林資源が失われるのです」と言われたこともあった。居合わせたゼミ学生は何も反論できなかったらしい。

「こうした価値観と立場の違う学生同士が真剣に対話することで、より深い考え方と相互理解を身につけることができるようになるのですよ」

緒方先生はそう言ってほほ笑む。

いずれ「自分の国」「自分の会社」「自分の家族」の利益だけではなく、人類・地球全体での「生態系的利益」でいや応なくすべてを考えなければならない時代が来る。そうした「生態学的リテラシー」ともいうべきものを理解した緒方ゼミ全学生による充実した研究発表や質疑応答の数々――その姿を目撃した記者として少しだけ安心することができたことも報告しておこう。

こんな生徒に来てほしい

まずは大学生活を通じて若き日にきちんとした知識を蓄えてほしい。そして、それをイメージだけではなく具体的な形にする真の能力も養ってほしいですね。ですから、どんどん考えたことを行動に移すことのできる明るい学生に期待しています。

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