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Good Professor

木暮 一啓

木暮 一啓 教授
東京大学
海洋研究所 海洋生態系動態部門 微生物分野 

こぐれ・かずひろ1952年東京生まれ。東京大学農学部水産学科卒。東京大学農学系研究科博士課程修了。02年より現職。日本微生物生態学会・アメリカ微生物学会等に所属。主な著書に『海洋生物の連鎖』(東海大学出版会)がある。木暮研究室のWebサイトはコチラ → http://www.ecosystem.ori.u-tokyo.ac.jp/microbiology/index.html

地球生命の鎖の仕組みを探る「海洋微生物学」

夏のある日の東京大学海洋研究所
夏のある日の東京大学海洋研究所

われらが太陽系第3惑星(地球)の表面の約7割を占める海だが、その大部分は深さ3000メートル以上の水深がある。その深海をはじめ海洋についてはあらゆる研究分野においてまだまだ未知の世界が広がる。

東京大学海洋研究所は①物理②化学③地学④生命科学⑤生態系⑥生物資源の6つの研究分野を大きな柱とした東京大学付属の総合研究所。ここでは、海洋について研究がなされると同時に教育機関として研究者の育成にも力が注がれている。今回登場願う木暮一啓先生の専門は、海中で最も小さい生物を研究対象とする「海洋微生物学」。なかでも厳密には動物とも植物ともいえないバクテリアに関する研究では第一人者として知られる。

まずはバクテリアについての基本情報からお聞きした。

「1ミリリットル(1000分の1リットル)の海水あたりどれくらいのバクテリアが存在すると思いますか? じつは約100万ものバクテリアがいるのですよ。手にとった海水が透明に見えるのが不思議なくらいの量ですよね」

普通に海水を採取して顕微鏡で調べると、目に見えるバクテリアの99%は今まで発見されたものではない「新種」なのだという。新しく発見されたバクテリアは、その生理性状や遺伝子情報をきちんと調べれば新種として登録することができる。しかしその数があまりにも膨大なので、特別に興味ある性質などを持っていない限り、誰もそれをしようとしないのが通例となっているのだそうだ。

環境専門家として遺伝子組み替え食物に危機感表明

研究棟の廊下には実験器具がずらり
研究棟の廊下には実験器具がずらり

海中のバクテリアの大きさは平均して0.6ミクロン(1ミクロン=1000分の1ミリメートル)。もしかしたら海水浴に行けば1億匹くらいは飲み込んでいるのかもしれない。バクテリアの存在を知らなければ飲み込んでいることを実感することもまずないが、そんなミクロの生物が地球生態系において必要不可欠な役割を果たしている。

「バクテリアが行なっているのは有機物を分解して炭酸ガス(二酸化炭素)に変える作業だけ。基本的にただそれだけです。バクテリアも子孫繁栄のためにどんどん数を増やしたいわけですが、自らのエネルギーの100%を種の存続に傾けるわけにはいきません。彼らも運動し呼吸する過程でエネルギーを使い、二酸化炭素を吐き出す。その炭酸ガスを植物が光合成に使う。その植物を動物が食べるという連鎖につながっていくのです」

そんな木暮先生の研究範囲は海洋微生物学にとどまらず、水産学・生態学・環境科学の専門家として「遺伝子組み替え食物問題」についても社会的に危機感を表明する環境理論家としても知られる。

では、もし有機物を分解するバクテリアが地球上からいなくなると何が起こるのだろうか?

「バクテリアの役割を端的に表現すると『最後の最後の後始末』といえるでしょう。動植物の死骸や排泄物は、ある程度までは小動物、もっと細かいレベルになればゾウリムシのような他の単細胞生物などが食べてくれます。ただそれらにも限界があって、やはりこれ以上細かくなりようがないミクロの世界になればバクテリアが処理する以外にないのです」

「もしバクテリアがいなくなれば、有機物が分解されないまま残されるので、分かりやすくいえば海もふくめて地球全体がどぶ川のようになってしまいます。この状態では植物が増えていくのに必要な窒素源やリン源の再生が途絶えますから、地球上の物質循環が止まって程なくして全ての生物は死に絶えてしまいます」

コロイド粒子とバクテリアの新しい生きざまとは

今年2006年、木暮研究室はある論文を発表した。先生自身が発見した「コロイド粒子」とバクテリアとの関係を明らかにした画期的な内容だ。80年代の終わりごろ、念願だった粒子解析装置を手に入れて海水を見たところバクテリア以外の無生物の粒子が水中を漂っているのを発見した。ここでコロイド粒子とは1000分の1ミクロン~1ミクロンの粒子の総称を指し、1ミリリットルあたりなんと1000万から1億という数で存在しているという。

「今回の論文は、バクテリアとコロイド粒子との関わり方について書いたものです。これまでバクテリアはコロイド粒子が近づいてきた時にそれを食べるとされていました。ところが研究を進めるうちに、バクテリアが細い毛のようなものでコロイド粒子を捕獲し分解して食べるという生態が明らかになりました。バクテリアの新しい生きざまを垣間見たという気がしますね」

あらゆる地球上の生物の祖先は海に漂うバクテリアであった。やがてそれが微生物になり魚になり陸上に上がり、そこからさらなる進化をへて人間にたどり着くまでの時間を思うと気が遠くなりそうになる。それでは、木暮先生自身の学問的興味の起源はどこだったのだろうか?

「じつに単純なものなのですよ。わたしは高校時代に生物部と水泳部の両方に所属していました。高校2年生のとき西伊豆に泳ぎに行って、そこで水中メガネごしに海のなかの様子を見たときの強烈な印象は今も忘れません。岩場だったのですが美しさに圧倒されてしまったのです」

「当時の生物部顧問の先生が面白いと思ったことに情熱を傾けるタイプの人でした。その頃まだ大学等でも目新しかったDNAの抽出法だとか遺伝子組み換えの技術などを習ってきて、高校生の私たちに教え込んでくれたのです。その時点で私の進む道はほぼ決まっていた――そんな気すらします。実際、同期の仲間には生物学の研究者がごろごろしています」

こんな生徒に来てほしい

ひょっとすると研究室にこもりきりの姿を想像されるかもしれません。しかし私たちの研究対象は自然そのものなので、数多くのフィールドワークを行ないます。世界中の自然のなかで取り組みたいターゲットを自発的に見つけることができる――そんな姿勢が若い人にはぜひ欲しいですね。

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