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Good Professor

今井 勝

今井 勝 教授
明治大学
農学部 農学科

いまい・かつ
1946年福岡県生まれ。69年東京教育大学(現筑波大学)農学部卒。71年同大学大学院修士課程修了。77年東京大学大学院農学系研究科博士課程(農業生物学専攻)修了。79年東京大学農学部助手。83年筑波大学農林学系助教授。96年明治大学農学部教授。元日本作物学会会長。日本生物環境調節学会顧問。02年日本生物環境調節学会学会賞受賞。主な著作に『地球環境時代に生きる農林業』(編著・筑摩書房)『エコロジー小事典』(訳書・講談社)『作物学事典』(編著・朝倉書店)などがある。
今井先生主宰「作物学研究室」のWebサイトアドレスはコチラ → http://www.isc.meiji.ac.jp/~sakumotu/index.html

迫り来る食糧危機に備える「作物学」とは

ある日の稲刈り実習
ある日の稲刈り実習
食用カンナの収穫
食用カンナの収穫

「地球上の人口は現在約65億人ですが、2050年までには90億人に増加すると予測されています。遠からず大変な食糧不足・食糧危機の時代がやってくることになります」

開口一番そう警鐘を鳴らす明治大学農学部教授の今井勝先生。2050年といえば現役高校生諸君が60代に入ったあたりで、諸君ら自身の問題ともいえよう。「作物学」を専門にする今井先生は、いまからその食糧危機を見据えて、食糧となる作物の合理的増産について研究をしている。

「これまで人類は、数千年から1万年かけて野生の植物を改良してイネやダイズやジャガイモなどの作物としました。そこからエネルギーを取り込んで生命と種族の維持をしてきました。ここでの作物生産は〝太陽の恵み〟つまり光合成を利用したものです。ところが産業革命後の工業活動や森林伐採等によって大気に放出された温室効果ガスである二酸化炭素の濃度上昇に伴って加速度的に温暖化が進み、異常気象も頻発しつつあります。また汚染物質の排出も大変なものです。いまや急激に変わりつつある地球環境が農業にも影響を及ぼし始めたのです」

自然にやさしい農法にこだわるイネ・カンナの研究

今井先生が温室を案内してくれた
今井先生が温室を案内してくれた
今井研究室のある第1校舎5号館
今井研究室のある第1校舎5号館

そうしたなか今井先生はイネ(コメ)を中心にした収量アップ農法について研究しているわけだが、先生はあくまで光合成に依拠した自然にやさしい農法で達成したいとする。 

「人も自然のなかで生かされているわけですから、作物の生産も過度に手を加えないで済む方法を考えていきたいですね。動植物の生育には自然の調和をつかさどる物質循環がとても大切で、それを無視して自然を攪乱するような農法には関わりたくないと思っています」

今井先生は、こうした温暖化のなかでの〝自然の営み〟にこだわって作物の収量アップの研究をしている日本でも数少ない研究者のひとりだ。将来に予測される環境を先取りした実験条件を設定して作物の光合成やバイオマス生産・収量形成などの過程を解析し、いかに合理的な生産体系を組んで人類の食糧要求に応えるかを課題として学生たちと共に挑戦している。

もうひとつ、今井先生にはカンナについての研究がある。カンナといえば園芸植物として花壇や路傍で栽培されているが、先生が注目しているのは花ではない。イモ(根茎)をつける〝食用カンナ〟のほうだ。

「まだ食用カンナは栽培化が進んでいないのでイモの収量はとても低い(収穫指数は約0.4)のですが、これから品種改良や栽培法の改善によって収穫指数を0.6~0.7にまで上げられるようになると思います。イモ類には大量の炭水化物が蓄えられていますから、将来の重要な食糧候補になり得ます。また巨大な食用カンナは、家畜の飼料やバイオエネルギー源としても有望な未利用の植物資源なのです」

そしてまた、この分野でのカンナの研究も先生は世界唯一の研究者なのだ。

実験・実習を通して学ぶ「自然の恵み」

初夏のある日の明大生田キャンパス
初夏のある日の明大生田キャンパス

今井先生にお会いした第一印象は、端然としてスマートな紳士ということ。その農作物の改良や生産ついての考え方にも一本芯が通っていて、見るからにすがすがしい。明大農学部の特徴について先生はキャンパスの立地のよさを強調する。

「ここの農学部の特徴といえば、実験圃場を備えたキャンパスがこんな都心の近く(川崎市多摩区)にあることでしょうか」

明大農学部は農学科と農業経済学科・農芸化学科・生命科学科の4学科からなる。このうち農学科のまとめ役である今井先生は21世紀の農学科について次のように語る。

「遠からずやって来る食糧危機を解決するためのパイオニアとなる学科をめざしたい」

同農学部の学生は、3年次になると各教員の研究室に振り分けられて研究室入りをする。今井先生の研究室でも例年3・4年次の学生各7~10人ほどを受け入れている。今井研究室では大学院生をリーダーにしたイネ班とカンナ班・タロイモ(サトイモ)班の3つの班があって、学生はそのいずれかに所属する。

「実験・実習を通して私の研究室では農作物を育て食べることが経験できます。それによってどの学生も〝自然の恵み〟に気づき、人も自然の一部であることがよく認識できるはずです」

農業経験ゼロ「都会っ子」が目覚める場

農学部OBの冒険家・植村直己氏の記念モニュメント

この実験・実習のほかに週1回のゼミ演習が行なわれる。ここでは外国文献の講読やディスカッションに充てられ、学生たちの卒業研究のテーマがやがて絞り込まれていく。そうした学生指導について今井先生は次のように語る。

「本学の農学部で学んでいる学生の7割は首都圏の出身で、この人たちは農業経験がゼロ。まったく白紙からの出発ですから、農学を教える側にとっては、研究うんぬんの前に何から教えていくかのほうが大変ですけどね(笑)」

「指導方針としては、“生き物を育てる心”をもち“自然の恵み”を感じてもらうことです。そのためには作物をよく観察して、それに興味をもつことです。それと私自身では〝物質循環〟と〝エネルギー循環〟を重視して自然にあまり手を加えない作物の生産を望んでいます。学生諸君にもそれをよく認識してもらうようにしています」

ちなみに、近年の就職難のなかにあって農業系学科の就職率好調が伝えられる。明大農学部農学科は特に好調で、学生が就職先の選り好みをしなければ100%就職が可能だそうだ。ただ、最近の学生は少しひ弱になっているのが気になるとの苦言も。

「ここ数年の現象ですが、学生たちの線が細くなっているような気がします。ちょっと厳しく叱ったりするとすぐ萎えてしまう(笑)そんな虚弱な人が確実に増えました。以前にも増して各学生に応じた指導やケアをしなければなりませんから、仕事が増えましたね」

高校生のころの今井先生は,農業より海底資源のほうに興味があって勉強をしていたという。ところが大学受験を控えた時期にアフリカでの内乱と飢餓が報じられ,食糧生産について学ぼうと人生航路の方向転換をした。(とくにビアフラ戦争=ナイジェリア内戦=では200万もの人が餓死したという悲惨なニュースに接した)。

「そんなことで私は食糧と環境の分野で頑張ってきたつもりです。若い皆さんも今こそ人間としていかに生きるのかを深く考えて、自身の進路を決めて欲しいですね」

取材を終えたあと今井先生が管理する最新の分析機器を配置した研究室をはじめ実験圃場・温室などを案内してもらった。そこで作業に励んでいる学生達のはつらつとした表情がいまも印象に残る。みんな実に楽しそう。ここにも名伯楽あり……」

こんな生徒に来てほしい

農学といわず何でも学んでやろうという意欲のある生徒さんに来てほしいですね。明大の農学科は非常に幅広く学際的に学べる学科です。ここでは1・2年次に基本的なことを学んで、3年次から本格的に専門を学ぶシステムになっています。ですから1・2年次のあいだに先輩学生や教員のしていることを見てから自分の進むべき道が決められます。世界標準(グローバル・スタンダード)のカリキュラムも整備しつつありますし、とてもいいシステムになっていると思いますよ。

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