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Good Professor

小坂 直敏

小坂 直敏 教授
東京電機大学
工学部 情報メディア学科

おさか・なおとし
1953年長野県生まれ。早稲田大学電気工学科修士課程修了。NTT研究所をへて03年より現職。『ピアノと二台のコンピュータのための「音の織物」』(98年)『バイオリンとオーケストラとコンピュータのための「雫の崩し」』(99年)『フルート、クラリネット、バイオリン、チェロ、ピアノ、コンピュータのための「日脚」』(06年)などオリジナル楽曲を多数発表している。
小坂先生が主宰する「音メディア表現研究室」のWebサイトアドレスはコチラ ↓
http://www.srl.im.dendai.ac.jp/

存在しない音を作り出す「音メディア表現研究室」

東京電機大学神田キャンパス
東京電機大学神田キャンパス

東京電機大学工学部情報メディア学科では、コンピュータテクノロジーを活用することでメディアがどのような表現や役割を担うことが可能なのかを追求するとともに、コンピュータグラフィックス(CG映像)や実写映像・音楽・Webコンテンツ制作などを基礎から学ぶことができる。最先端の情報メディア技術にじかに触れることに興味があり、しかもクリエーティブな発想を生かしたい欲求がある工学系学生にはもってこいの学科といえるだろう。

情報メディア学科のなかで「音」というメディアを扱うのが「音メディア表現研究室」であるが、今回ご登場願う小坂直敏先生へのインタビューが進むうちに、この研究室がいわゆる〝音楽〟を学ぶ場ではないことが今更ながらよく分かった。「音楽」そのものを学ぶのであれば、いわゆる「音楽系大学」を選べばいい。この音メディア研究室が取り組むのはデジタル情報技術。具体的にいえば、デジタルコンピュータ技術をフルに活用したこれまでにはない音の世界なのだ。

長い講釈などよりもまずは実際に体験したほうが良いだろうと、ある音をヘッドホンで聴かせてもらった。ソプラノ歌手が長い音符で歌う「ラァー」の音声だが、みるみるソプラノの声が赤ん坊の声に変わってしまう。長さにして約3秒の間に、ひとつの音がグニャリとゆがむように全く形を異にする音に変わっていく。

「いま聴いてもらったのは『モーフィング』という音声変換技術です。じつは映像分野ではすでに普及していて、TVコマーシャルなどにも頻繁に使われていますよね。カット割りなしで子どもが大人に変形したり、人間が何かの物体になったりというように。映像においても音においても、この変換はコンピュータ処理技術抜きでは再現できません。情報技術を用いた音づくりの一例としてモーフィングを聴いてもらったというわけです」

モーフィングの例では、ソプラノ歌手から赤ん坊の声だけではなく、ソプラノ歌手からフルートの音、またその逆、あるいはアルトサックスから赤ん坊といったパターンも聴かせていただいた。当然だが今まで全く聞いたことのない音声の変化であり、まさに音が変形していく瞬間には空気がゆがんでいるような錯覚すら覚えてしまった。

コンピュータを用いた音楽という意味なら、テクノポップ音楽に代表される「打ち込み」系にも当てはまる。またテクノでなくとも、Jポップヒットチャートに登場する日本人アーティストの楽曲にもかなり質の高い音が使われるようになった。機材が安く手に入るようになったことにより今では高校生レベルでも音楽制作に手が届くようになったが、もちろん「音メディア研究室」で行なわれているのは既存のツールを操作し使いこなすということだけではない。

「わたしの研究室で主に取り扱っているのは音や音声そのものの合成と分離です。これまででは考えられなかった音の世界がコンピュータ技術の発達により切り開かれることになりました。まだこの世に存在していない〝新たな音〟を作り出すこと――これが目的ということになります。この研究室で生まれる音声作成技術があらゆる芸術作品やエンターテインメントで生かされればいいと思いますね」

ITテクノロジーから見えてくる「未来の音」

ある夏の日のキャンパス前通り
ある夏の日のキャンパス前通り

つぎに聴かせてもらったのは、フルートの生演奏とモーフィング技術とを同時進行で組み合わせた『鏡石』という不思議な曲だった。フルートの音をコンピュータで制御しながらソプラノの声と組み合わせていく。高度に発達した情報技術、そしてその技術を最大限に利用する能力がなければ成立しない音楽の「未知の姿」を垣間見せてもらった。

これらを絵画に例えれば、絵(音楽)と絵の具(音の素材そのもの)との関係に似ている。いわば、小坂先生らの作るものは絵の具なのだ。すでに楽曲・商品となっている音ではなく、情報技術を駆使して加工・エフェクトを加えながら「新たな音」を次々と生み出していく。

ちなみに小坂先生はこの06年4月、コンピュータ音楽研究の世界最先端を走るスタンフォード大学からデジタル音楽作品の依頼を受けた。スタンフォード大学においてコンピュータ音楽に携わるスタッフの半分は作曲家や演奏家だが、残る半分はすべてテクノロジーを担当する研究者だという。

「欧米最先端のコンピュータ音楽制作の世界について言えることは、工学的なテクノロジーが音楽制作の大きな部分を占めていることです。また工学的テクノロジーの面においては音の合成以外にもその逆の音の分離も大事となりますが、このあたりも私たちの研究室では重点的に研究しています」

私たちがふだん耳にする音について注意深く聞いてみれば、騒音も含めさまざまな音がミックスされて聞こえているということに気づくだろう。換気扇や家電製品の音、あるいは遠くを走り去る自動車や電車の音……。ただ、まだまだ個々の音を識別するコンピュータの能力については現時点では高い精度を得られていないという。

小坂先生が研究について熱心に話す姿を見ていると、専門分野をとことん追求することができる学生諸君の大学生活がうらやましく思えてきた。この音メディア研究室から私たちの耳に今まで聴いたことのない「豊かな音」が届けられるのもそう遠い未来ではなさそうだ。

ITテクノロジーだけが生み出すことができる音――そうした世界に興味があるのであれば、小坂先生の研究室のドアをたたくことをお勧めする。

こんな生徒に来てほしい

音声メディアといってもかなりテクノロジー重視の領域ですから、多少とも数学やプログラミングの訓練が必要になります。「音楽か、ちょっと面白そうだな」というイージーな発想だけで来られるとちょっと苦しいかもしれません。ただし、基本を忠実に学んで新しいものを作る好奇心があるなら大歓迎です。

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