- 新 誠一 教授
- 電気通信大学
電気通信学部 システム工学科 しん・せいいち
1954年大分県生まれ。78年東京大学工学部卒。80年同大学大学院工学系研究科修士課程修了。80年東京大学工学部助手。88年筑波大学電子・情報工学系助教授。92年東京大学工学部助教授。06年より現職。計測自動制御学会論文賞(91年・93年・98年)同武田賞(92年)同技術賞。主な著作に『ウェーブレット解析の産業応用』(共著・朝倉書店)『図解カーエレクトロニクス最前線』(工業調査会)『無責任体制の終焉』(名著出版)などがある。
技術立国を支える「制御工学」とは

- 新研究室のある電通大西5号館
今回紹介する電気通信大学電気通信学部の新誠一先生の所属はシステム工学科である。システム工学とはどんな学問分野なのか? まずは、その説明からしてもらおう。
「システム工学というのは横断的な幅広い学問分野でして、ひとつの技術を追求するのではなく、いろいろな技術を統合してシステムにまとめ上げることを目的にしています。その意味でこの学科にくれば、必ずやりたいものがあります。ですから、理系志望でまだやりたいことが見つかっていない人は、まずこの学科に入って見つけるのもひとつの方法ですね」
「制御工学における制御とはモノを動かすことをいいます。たとえば飛行機や新幹線・自動車あるいは家庭電化製品などが作動するのは、すべて制御の力によるものです。その利便性を中心にどう作動させれば良いのかを考えているのが我々の研究となります」
21世紀における制御工学分野のキーワードは「安心」「安全」「環境」だとも語る。また今後注目されるものとして「福祉」「介護」の分野だと盛んにいわれるが、新先生自身も新しい人工呼吸器の開発に成功している。従来の人工呼吸器では、機器にセットされたタイミングで患者は強制的に呼吸させられていたが、新先生が今回開発したものは、患者の呼吸に合わせて機器が作動するシステムに改めた。これによって呼吸器疾患患者の苦痛が大きく軽減されることになる。
「私どもの研究の対象は人間生活のあらゆる分野にわたります。しかも人のためになって喜ばれるとなると、これほどやり甲斐のある研究分野もそう多くはないでしょう。好奇心旺盛な人にはうって付けの分野ですから、そういう若い人にどんどん参加してほしいですね」
そう語る新先生自身こそが好奇心の塊のような人のようだ。
電気通信大学は国立大学法人では地名が付かない唯一の単科大学として知られ、その学習環境はすこぶる恵まれている。新先生が続ける。
「国立大学の特徴としては、まず学生に対して教員の数が多いことですね。たとえば卒業研究で学生はほぼマンツーマンの指導が受けられます。これは実験研究の設備についても言えることでして、学生をめぐる環境は非常に恵まれているといえます」
こうした恵まれた環境で電通大に与えられているのは「技術立国ニッポン」を支える技術者の養成という使命であると語る。さて、新先生の専門は「制御工学」である。
1人ひとりの個性に合わせて指導

- ある初秋の日の電気通信大学正門
「新先生は東京大学から電気通信大学に赴任したばかりで06年度のゼミ演習は担当しておらず、来年度(07年度)から始める予定となっている。その学生たちへの指導方針については次のように考えているという。
「国立大学のよさはゼミ学生にほぼマンツーマンで教えられるところですから、その長所を最大限生かせるような指導をしていきたいですね。そのためには学生1人ひとりの個性をよく観察していきたい。わたしがあまり口出ししないで1人でコツコツやらせる方がいい学生、あるいは徹底的に手助けをした方が伸びていく学生、ときどき声をかけてやるのがちょうどいい学生など――各学生の特徴や性格を見極めながらそれぞれが伸びる方向なり方法を探ってあげたいですね」
前任の東大においては、9時間近くも語り合って学生本人の悩みの原因を引き出したこともあるそうだ。
「みんな私をおしゃべりな教授だと思っているようですが(笑)、本当は聞き上手のほうなのですよ」
そう笑いながら語る新先生。実際に学生たちの声に真剣に耳を傾けて一緒になって考えてくれる兄貴的な先生でもあるようだ。
システム工学「実践版」VEC会長として

- 道路をはさみ東西に分かれるキャンパス
ところで新先生は学外の組織VEC(Vitual Engineering Company)の会長兼技術顧問の要職にもある。VECとは、個別の企業単位では解決できない複合的な問題を多くの企業の知恵をもち寄って解決を図ろうという企業の集まりの場で、新先生も活動を支援している。
「VECは立ち上がって7~8年になるでしょうか。人間が1人でできることには自ずと限りがあります。それぞれの知恵をみんなが持ち寄って集まってプロジェクトチームを組織する。それは企業間においても同じで、それぞれの企業が特徴的なものを持ち寄って協調していこうというのがVECです。人間も企業も自分に欠けているものは案外わかっていないもので、それを他社の目から見られるプロジェクト組織によって補っていこう――これがVECのねらいとなります」
いまでは国内の大手メーカーの多くがVECに参加している。さきの患者本位の人工呼吸器の開発は、新先生の指導によってカナダや国内の医師や専門メーカーといっしょに開発・制作したものだ。ほかには遠隔操作によって危険な場所を探索・監視する機器を無線・自動車・カメラなどのメーカーと産学協同で開発中という。まさにシステム工学の「企業実践版」であり、究極の産学協同プロジェクトを実現しているともいえよう。
モノづくりの喜びを味わせたい

- 深緑が美しい電気通信大学キャンパス
そして現役高校生諸君のために貴重なメッセージの数々を贈ってくれたので、ここでいくつか紹介しておきたい。
「若い人は知らないことが多いのは当たり前なんです。それは欠点ではなくて、むしろ利点と考えたほうがいい。知らないからこそ教えてもらって、どんどん知識の財産を増やしていけるのです。中途半端な知識しかないのに『そのことは知っています』などと言い放ってしまえば、もう誰からも教えてもらえません。つねに前向きであること――若者にはこのことが特に大切になります」
「モノづくりにおいて大切なのは人の心を知ること――VECなどの経験から私が得た教訓です。逆にいいますと、開発している側の心がこもっていない製品は絶対に売れません。ただし、本当の意味での人の心を知ってからモノづくりを始めるのでは歳を取り過ぎてしまうことになります。モノづくりを実際にしながら、自分には何が足らないのかを考えて学ぶようにすることです。じつはモノを作りながら学ぶのが、最も効率のいい学び方でもあるのです」
「大学の教員をしていますと多くの若い人々に接します。それぞれの若者に人生があって、それも一度きりの人生です。そんな彼らに、モノをつくり出す楽しさや人から評価される喜びを教えて味わせてあげたい。それが私の仕事の本分だと思っています」
まさに一生もの師として仰ぎたい先生だ。
こんな生徒に来てほしい
好奇心を持っている人がいいですね。エンジニアというのはモノをつくって動かすという楽しい仕事で、活躍する領域の広い分野です。それこそ飛行機から自動車・医療・農業分野にまで及びます。しかも人のためになって喜ばれる仕事でもある。そうしたことに素直に喜びを感じられる人にぜひ来ていただきたいですね。

