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Good Professor

藤江 裕道

藤江 裕道 主任教授
工学院大学
工学部 機械工学科

ふじえ・ひろみち1961年生まれ。85年東京工業大学工学部機械工学科卒。87年同大学院総合理工学研究科システム科学修士課程修了。87年北里大学医学部助手。90年米カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部および米ピッツバーグ大学医学部バイオメカニクス研究センター客員研究員。92年米ピッツバーグ大学医学部バイオメカニクス研究センター相談役。96年大阪大学基礎工学部助教授。01年工学院大学工学部助教授。03年より現職。主な著作に『バイオメカニクスからみた膝関節の機能』(中山書店)『ロボティクスを用いた膝靭帯機能と靭帯再建術に関する研究』(治療マニュアル)『生体力学(バイオメカニクス・運動学)In 膝関節の外科』(医学書院)などがある。藤江先生が主宰する「バイオメカニクス研究室」のWebサイトアドレスはコチラ → http://www.ns.kogakuin.ac.jp/~wwa1028/

機械工学と医学を結ぶバイオメカニクス

中央の高層ビルが工学院大新宿キャンパス
中央の高層ビルが工学院大新宿キャンパス
工学院大学新宿キャンパスの正面入り口
工学院大学新宿キャンパスの正面入り口

今回紹介する工学院大学工学部機械工学科教授の藤江裕道先生。インタビュー記事の前に巻末のプロフィール欄を見ていただこう。藤江先生は東京工業大学を卒業してから日米3大学の医学部・工学部に在籍し、10年近くも医学分野の研究をしてきた。

「より正確には医学と機械工学を結びつけるバイオメカニクス(生体力学)の研究を行なってきました。わたしの専門分野は生体の関節の研究なんです。たとえば関節の摩擦係数のオーダーは0.001つまり1kg重の荷重に対してわずかに1g重の摩擦力です。このような力学的視点から生体のすばらしさを再認識し、さらには医学における問題を解明することが私の研究テーマです」

実際に藤江先生は、膝関節手術の臨床現場に立ち会ってバイオメカニクスの立場からの判定作業、あるいは臨床医師への手術前のシミュレーション解析結果の提供なども行なっている。世にバイオメカニクス研究を標榜する研究者は多い。しかし藤江先生のように医学部での研究も積み、臨床現場に立ち会って判定を下し、手術医を指導する研究者ともなると世界的に見てもごく少数しかいない。

2足歩行の宿命を救う軟骨組織再生

晩秋のある日の新宿キャンパス脇の広場
晩秋のある日の新宿キャンパス脇の広場

加齢とともに人間は膝関節の軟骨が摩耗していく。中年以上の人(あるいは膝関節を酷使するスポーツ選手など)が膝痛に悩まされることが多いのはそのためだ。しかし現在の治療方法は、医学的治療とも言いにくいような対症療法でしのいでいるのが実情だ。そこで藤江先生がいま新たに取り組んでいるのが軟骨の組織再生工学の研究だ。

「この研究は組織再生が目的ですから、いわゆる機械工学の域を越えていますけどね(笑)。膝関節から幹細胞を取り出して、それを培養して軟骨に再生させて患部に移植しようという研究です。この研究には培養など専門的技術もあって、どうしても私どもの研究室だけでは手に余ります。ですから大阪大学医学部との共同研究でやっています」

世界中の高齢者の約半数は関節軟骨の摩耗による変形性関節症の痛みに悩まされているといわれる。藤江先生たちの共同研究が成功すれば、膝痛・肱痛に悩む高齢者に大きな福音をもたらすことになろう。すでに動物実験段階まで進んで好結果を得ており、ヒトへの実用も近いとも語る。

このほか藤江先生の研究室では、「義足のバイオメカニクスの研究」もっと変わったところでは「ミミズの運動解析」などの研究も行なっているという。

成績トップクラスの学生が集まる研究室

06年「富士吉田合宿」での集合写真
06年「富士吉田合宿」での集合写真

若々しい端正な顔立ちが印象的な藤江先生の周りには、物静かな中に理知的な雰囲気がただよう。インタビュー中の話の内容も論理的で実にわかりやすい。工学院大学工学部機械工学科の特徴については次のように話してくれた。

「この学部学科の教員はバラエティーに富んでいます。教育・研究のどちらかに偏ることもなく、両者のバランスがいいのが一番の特徴でしょうね。カリキュラムに実習・演習が多く、機械エンジニアに必要とされる実技が徹底的に鍛えられるようになっています。そのため他の工学系大学に比較して設備や施設も充実しています」

ところで工学院大学には新宿と八王子にキャンパスがあって、藤江先生の研究室は八王子のほうが本拠地となる(この日の取材は都合で新宿キャンパスにある先生のもうひとつの研究室で行なわれた)。したがって学部4年次の学生で藤江研究室入りをして卒業研究に取り組む人は八王子キャンパスのほうに主に通うことになる。

この藤江研究室の定員は毎年10人だが、そのメンバー入りすることは難関中の難関とされる。並みいる機械工学科のなかでも藤江研究室の人気はナンバー1で、学科内の成績上位者でメンバーが占められてしまうからだ。

「おかげさまで学科でも成績のトップクラスの学生が来てくれています。ただ成績もさることながら、私としては本人にやる気があるかどうかも重要です。メンバー入り選抜ではその点を重視しています」

面接選抜なども実施されるが、それより大切なのはふだんの授業態度で、常日ごろから藤江先生は優秀な学生をチェックしているらしい
大学の研究室でどれだけ頑張ることができたか?――それこそが、その後の人生を左右することになるだろう――そう熱く語る藤江先生だ。

そのためにも学生たちには学会発表など積極的に参加するよう推奨している。学会発表は同学好学の士と知り合う絶好の機会でもある。先生自身も国際学会に毎年必ず参加するようにし、そのときには大学院生を同道させることが多い。こうした学生の海外渡航に大学が費用負担をしてくれる制度等もあって、それらも大いに利用する。

「いずれにしても私の研究室に来てくれれば、真の意味での大学生活を満喫させてあげますよ」

そう言って朗らかな笑いをみせる藤江先生。次代を担う若者たちへの期待とともに、叱咤激励のし甲斐のある相手を待ち望むような意味深長な意味合いも含まれているように感じたのは筆者の気のせいだろうか。

学部卒論でも学会発表できるレベルを

原子間力顕微鏡で見た軟骨の組織再生写真

学部生メンバーの正式な研究室入りは4年次の新学期からだが、実質的には3年次後期からセミナー演習形式のレクチャーが頻繁になされていく。ここにおいて生体工学・バイオメカニクス全般について基本的知識を身につけてもらい、本番の研究に備える。そうした学生たちへの指導方針については次のように語る。

「研究室入りする学生たちにまず最初に言うことは、ただ卒業論文を書いて卒業したいという目標だけならウチの研究室に来なくていいということです。できれば学部学生の卒業論文でも学会発表できるくらいのレベルのものを求めたい。極端に言えば、卒業論文に命を懸けるくらいの気概とやる気で向かってほしいわけです」

はっきり言って、これは現役学生にとってはかなり厳しい要求だ。さらに、そのうえで大学院までを視野に入れて研究に取り組んでほしいとも。

「やはり本当の自分の力を出し切るためには、学部4年次の1年間だけでは短すぎる気がします。卒業論文のためだけの論文では全然ダメで、自分が大学で学び研究した成果を世間に公表できるようなものを目指してほしいですね。そのためにも私の研究室にくる学生には大学院まで視野に入れて来てほしいと伝えています」

こんな生徒に来てほしい

私たちが研究しているのは、医学の変革をめざす全く新しい工学分野です。ですから、あらゆる所にいろいろな「宝物」が隠されているような状態ともいえます。その意味で非常にやり甲斐のある世界です。かなりレベルの高い研究をしていますので、卒業後のステップも高くなると思いますね。

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