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Good Professor

鞠谷 雄士

鞠谷 雄士 教授
東京工業大学
大学院 理工学研究科 有機・高分子物質専攻

きくたに・たけし
1954年静岡県生まれ。77年東京工業大学工学部有機材料工学科卒。82年同大学大学院理工学研究科繊維工学専攻博士課程修了。82年東京工業大学工学部有機材料工学科助手。91年同助教授。01年より現職。この間86年米オハイオ州立アクロン大学客員研究員。繊維学会学会賞(99年)をはじめ受賞多数。現在、繊維学会副会長。主な著作に『疾走するファイバー』(監修・日本科学未来館)『成形加工におけるプラスチック材料』(監修・シグマ出版)『プラスチック成形品の高次構造解析入門』(共著・監修・日刊工業新聞社)などがある
ちなみに鞠谷研究室のWebサイトはコチラ →http://kikutani.op.titech.ac.jp/Japanese/kikutanilab_top.html

繊維材料工学の世界最先端を拓く

鞠谷研究室のある東工大「南8号館」
鞠谷研究室のある東工大「南8号館」
初夏を迎えた東工大大岡山キャンパス正門
初夏を迎えた東工大大岡山キャンパス正門

今週ご登場願う一生モノの恩師は東京工業大学大学院理工学研究科の鞠谷雄士教授。その周りには一見してキリッとした顔立ちでスマートな都会派プロフェッサーの雰囲気が漂う。そんな先生が学部(工学部)で担当するのは有機材料工学科。まずは同学科の特徴からお聞きしていこう。

「この有機材料工学科で学ぶのはいわゆる材料工学ということになります。原子・分子といったミクロの世界から製品化されたマクロな世界まで連続的・網羅的に学べるのが一番の特徴ですね。基礎物理から有機合成・複合材料・高分子材料の基礎など多岐にわたる専門分野の先生方が揃っています」

化学から物理学さらには材料加工学に至る多彩な工学分野が学べる東工大工学部有機材料工学科は、ミクロからマクロなレベルまでの材料工学と製品研究について総合的に扱われることで知られる。カリキュラム選択の多彩さや将来さらに専門性を深める時点での科目選択の自由度の高さなど、理系志望高校生にとって魅力的な注目学科ともいえよう。

そのなかで鞠谷先生自身の専門分野は「繊維・高分子材料の成形加工」と「高分子の構造と物性」。基本的にはプラスチックの材料を溶かして変形させて固め、それによって高性能・高機能の新繊維材料を創るといった研究の流れということになる。

「高分子材料というものは各分子の配列の違いによって性質が大きく変わるという特徴をもちます。その特性を生かして分子の配列を変えながら新しい繊維の開発に取り組むのが私たちの研究スタイルということになります」

ここで鞠谷先生のこれまでの研究成果のいくつかを挙げてみると、まず時速600㌔という高速度で糸を紡ぎ出す「超高速溶融糸プロセス」がある。これは高速で糸を引き伸ばしながら高強度の繊維を得るというもので、この研究分野では鞠谷先生が第1人者とされる。すでに工業化もされている。さらに現在は、①もっと高速あるいは低速での糸引き②繊維材料の複合化(一部実用化も始まっている)などの実用的研究にも入っている。

さらに「光干渉性繊維」の開発もある。これは繊維の断面のなかにナノメートルという極小レベルの薄いフィルムの積層構造を挿入して染料を使わずに光の干渉で発色させるというもの。最終的な実用化への開発はある企業に委ねられたが、チョウの鱗粉の発色原理を繊維で再現しようとする基礎研究までは鞠谷先生らによる研究成果だ。

これも世界初の試みだったが、すでに自動車のシートや塗装あるいはネクタイなどの繊維製品に現在ひろく実用化されている。

「モノづくり」「計測」「モデル化」が同時進行

大学本館前はウッドデッキになっている
大学本館前はウッドデッキになっている
緑陰がうれしい東工大構内イチョウ並木
緑陰がうれしい東工大構内イチョウ並木

「私たちの研究はモノ(新繊維材料等)ができるための仕組みについてですから、そのためには『測定』という作業が研究段階のそのたびに必要となります。ですから①糸を引き伸ばす速度②糸の太さ③分子の配列④温度などを糸をつくりながら計らなければなりません。しかしそんな特定的な測定器が市販されているわけではありません。そうした計測方法もすべて自分たちで工夫して考え出していきます」

「さらにいえば『モデル化』という作業も重要となります。そこにどんな現象が起こったのか? その時点での成果を数式化してモノができ上がる仕組みを明らかにしていく作業も地味ですが大切なのです」

したがって鞠谷研究室では、実際にモノをつくり出すプロジェクト、それを逐次計測するプロジェクト、さらに各現象を数式にしてモデル化するプロジェクト――という3本柱が同時進行で日々進められていく。そのなかには世界初となり得るような研究もおびただしい。まさに材料工学志望の学生・院生にとっては日本一の環境といってもいい。

「これまでは繊維の研究が大半でしたが、最近はフィルムについての研究も多くなっています。いま大人気の液晶ディスプレーの表面には『位相差フィルム』というものが張られていて、それがモニターとしての見え方を制御しています。これらも分子の配列によって屈折率が変化して見え方が違うわけです」

さらに最近は高分子材料のなかで分子の連なりが絡み合っている状態を制御するという研究も始めている。これらを制御した結果なにが生まれるのか全く想像できない暗中模索の状態での研究! そう言いながらも、次々と未知の分野への研究意欲をみなぎらせる鞠谷先生――。その意気軒昂たる姿は感動的ですらある。

まだまだ未知の領域が広がる繊維材料工学

日本を代表する理系総合大学である東京工業大学の学部生が各教員の研究室入りをするのは4年次になってからだ。4年次の1年間を研究室に入りびたり、そこで卒業研究に打ち込むことになる。

工学部有機材料工学科のほかの研究室でも同様だが、鞠谷研究室の受け入れ学生の定員はなんと2人。つまりマンツーマンに近い状態で最高水準の研究者による親身の直接指導が受けられる。まさに理系国立大学の勇ならではの研究環境といえよう。

「有機材料工学科のばあい各研究室への学生の振り分けは学生同士の話し合いで決められています。ですから私たち教員側にはどんな学生が配属されてくるのか最後まで分からないのですよ(笑)」

このアバウトさ(?)も日本中の優秀な理系学生が集まる東工大ならではか。あらためて学生指導の方針については次のように語る。

「学生各自の自主性を育てたいというのが一番ですね。うちの研究室では大きな装置を使った共同作業も多いですから、学生同士の協調性もなんとか養ってほしいと思います。わたし自身いつも口癖のように学生や院生たちに求めているのは原理原則のつじつまが合うような説明や研究を心掛けなさいということです。それが工学の原則ですからね」

ちなみに鞠谷研究室では大企業との共同研究プロジェクトがいくつか同時進行している。そうしたメーカー企業側から派遣されている技術者といっしょに研究室内で作業する機会も多い。

「そうした企業の方の実験を手伝ったり、ミーティングに参加することも日常的にあります。そうすることで業界の最新情報に触れたり、社会人に対して失礼のない対応をすることを覚えたりと、なかなか得難い実地の社会勉強にもなっていると思いますよ」

そして最後に現役高校生諸君に向けて鞠谷先生は次のような言葉を贈る。

「私たちが材料工学の対象として扱っているのは繊維です。これは工学のなかでは古い部類に入る学問分野で、そういう否定的な見方をされる方もあるかも知れません。しかし繊維の世界もどんどん変わっていまして、そうした最先端の研究にこの研究室では触れることができます。そこらへんをよく理解してほしいと思いますね」

まだまだ未知のことも多く、日々新たに開発されていく領域もはてしなく広い。これからも若い人が大いに活躍する場のある分野だとも強調する。

これまでの鞠谷先生の活躍ぶりを見ていると、それが決して誇張した話ではないことが分かってくる。

こんな生徒に来てほしい

自分で考えることのできる人に来てほしいですね。自分で考えるというのは、自分の世界だけに閉じこもって考えるということでは決してありません。ひろく他の研究者の意見もよく聞かないといけません。まず自分なりの発想をしっかり持つこと。そのうえで他の意見や実験結果によって逐次修正し、さらに先に進む。そうしたことに努力を惜しまない人ならさらに理想的です。

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