- 折谷 吉治 教授
- 明治大学
商学部 おりたに・よしはる
1948年富山県生まれ。72年金沢大学法文学部経済学科卒。72年日本銀行に入行し、調査局・金融研究所・考査局・国際局などを歴任。この間に日銀在職のまま米ミネソタ大学客員研究員をはじめ経済企画庁委員・JICA(国際協力事業団)アドバイザー・IMF(国際通貨基金)ミッションメンバー・日本政府インドネシア支援団メンバー・世界銀行ミッションメンバーなどを兼任。02年日本銀行退職。02年より現職。共著の著作のほかに『中央銀行のガバナンス・ストラクチャー』『金融システムにおける中央銀行の存在理由』『中央銀行のパブリック・ガバナンス』など論文多数
ちなみに折谷先生が主宰するWebサイトはコチラ →http://www.kisc.meiji.ac.jp/~oritani/Homepage2005/indexf.htm
組織としての金融インフラの仕組みを伝えたい

- 折谷研究室のある明治大学駿河台研究棟

- 盛夏を迎えた駿河台キャンパスの建物群
「日本銀行という〝組織〟で30年間働いてきました。そこでの経験をもとに、最近発展の目覚ましい〝組織の経済学〟を応用して銀行・金融インフラの組織をめぐる諸問題について研究しています。そうした研究成果を『金融に強い明大商学部』の学生たちに直接伝えられるのはとても楽しいですね」
インタビューの冒頭から嬉しそうにそう語るのは、今回ご登壇ねがう明治大学商学部の折谷吉治教授だ。明大商学部は卒業生の4人に1人が銀行など金融機関に就職しており、金融界で最も有力な大学・学部として定評がある。このあたりの事情について折谷先生は次のように説明する。
「本学に限らず、どこの大学も商学部の主要な目的のひとつは、バンカー(銀行員)の養成にあります。その扱う「通貨」や「金融」というのは、ビジネスのあらゆる要素が集約されています。そのため立派なバンカーになりたい学生はビジネスに関するすべての学問に通じなくてはなりません。その点において本学商学部は『市場総合科学の学部』を標榜しており、バンカーになるのに役立つカリキュラムがたくさん組まれています。これは学部創立100年を超える伝統に培われたものと言えるでしょう」
アジア「中央銀行」「共通通貨」の実現を見越して

- 新生明大のシンボル「リバティタワー」

- 「日銀グランプリ」最優秀賞の受賞風景
冒頭にもあったように、折谷先生は日本経済の心臓部・日銀において長く活躍してきた。その間に97年からの「アジア通貨危機」や2000年の「コンピューター誤作動問題」(Y2K)があったが、そのいずれも日銀における実質的責任者として問題処理の指揮を執った。
アジア通貨危機では、タイから始まりお隣の韓国までアジアのほとんどの国の金融市場が大パニックに陥った。これが後で述べる折谷先生の研究のキッカケともなる。
つまりヨーロッパは何度も通貨危機を経験したあと「欧州中央銀行」を設立し通貨統合を果たしたが、アジアにおいてもアジア諸国が協力して「アジア中央銀行」を設立すべきなのだ。そしてアジアの共通通貨を創設すれば通貨危機は起こらないはずだという考えだ。
一方「Y2K問題」では2000年を最初に迎える日本に世界中の注目が集まったが、大過なく日本中のコンピューターおよび金融システムは正常作動を続けた。焦眉の年明け1月2日に折谷先生は記者会見を行ない、「日本の金融システムはすべて順調に動いています」と誇らしく宣言。その映像はこの日の各局テレビで何度も繰り返し放映された。
「Y2K問題は、宇宙人と地球人との戦いのように全人類の利害得失がみごとに一致しましたね。世界中の国のあらゆる分野の人が協力したという意味で、歴史的な出来事だったのではないでしょうか。無事に終わって今振り返ってみると、あの騒ぎはいったい何だったのだろうと思ったりもしますが(笑)」
そのあと折谷先生は日本銀行の重職から大学教授職へと転身を遂げて現在に至る。その研究テーマはズバリ「中央銀行組織の研究」。ここで中央銀行というのは、日銀に代表される各国1行だけの特別な銀行のことで、その国の金融システムを支えるとともに金融政策の運営を主な業務とする。
「これまでの中央銀行研究といいますと、金融政策の面からの研究が大半でした。これを組織論の立場から徹底的に解明してみたいというのが私のアプローチです。中央銀行の組織とは、だれか特定の個人がつくり上げたものではありません。商業銀行からの長い歴史、つまりは各国民ひいては人類の英知がつくり上げたものです。そうした組織がどのように発達してきたのか、そして今後どうすれば〝アジア中央銀行〟などに発展し得るのか等について研究しています」
こうした折谷先生の話は非常に滑らかだ。そのためか多少早口になりがちだが、その語りには独特の抑揚があって、重要なキーワードが聞き手の心に留まるような話し方をされる。初対面ながら優れて話し上手な先生とお見受けした。
他に例を見ない「金融機関論」という講義科目
さて、折谷先生が商学部において実際に講義しているのは「金融機関論」ということになる。
「ちょっと聞き慣れない講義科目ですよね(笑)。その多くが金融機関に就職する明大商学部ならではの科目ともいえます。金融の講義は一般に小難しいと思われがちですが、それは株式・債券など相場の変動のことを最初から考えるからです。金融組織の全体からすると、相場の問題などはごく一部の現象にすぎません。もっとも重要なのは、組織の根っこの部分たる金融インフラについて知ることなのです」
「わたしの講義では、まずこの金融インフラの基本について教えます。金融の現場では数多くの誠実でまじめな人たちが『組織』を形成したうえで、地味な仕事を協力しながらやっていることを伝えていきます。それに続いて金融市場の種類とその仕組み、さらには混乱防止の対策などについて語っていくことになります」
折谷先生の話には、たびたび「組織」というキーワードが出てくる。これは、効率よく機能する現実の組織づくり・運営の難しさや、さらに組織のなかに身を置いて周囲と協調しながら自らの意見を通していくことの困難さについて先生自身が身をもって経験しているからなのだろう。そうした貴重な経験の一端を、これから国内外の金融インフラ組織で活躍する学生たちに惜しげもなく繰り返し語り聞かせているのだ。
「日銀グランプリ」でゼミ生が栄えの最優秀賞
明治大学商学部のゼミ演習は2年次から始まる。折谷ゼミは入ゼミ希望者の多い人気ゼミとして知られ、例年定員いっぱい20人ほどのゼミ生を受け入れている。その大半が卒業後にバンカーか銀行系のSE(システムエンジニア)をめざす。
「くどいようですが(笑)、わたしのゼミの目的は『組織のなかで協力できる人』の養成です。そのためプレゼンテーションを重視しています。毎回かならず全員に発言の機会を与えることによって、そのスキルを身に付けてもらうようにしています。日銀のコンピューターセンターや銀行のディーリングルームなどの見学等も通して、現場の雰囲気を肌で感じてもらいます」
そんな折谷ゼミの統一テーマは「金融情報システム」。その中でも電子マネーから日銀ネットまでの「決済システム」を中心テーマとしている。このテーマを扱っている大学ゼミは全国でここだけらしい。
ところで、日本銀行は06年から学生を対象にした「日銀グランプリ~キャンパスからの提言」というコンクールを始めている。そこに折谷ゼミから参加した3人のゼミ生のグループが第1回最優秀賞をみごとに受賞した。
有力国立大学をはじめ強豪グループぞろいだったが、それらを打ち破っての受賞だけに折谷先生の喜びもひとしお。最優秀賞の栄誉に輝いたのは「電子ペーパーマネー・システムの構築」というテーマで、まさに日ごろの折谷ゼミにおける決済システムの研究やプレゼン力・チームワークなどがそのまま栄えある最優秀賞に繋がったともいえよう。
さらに折谷ゼミの特色として、ゼミ卒業生の人生の岐路・就職にあたっての折谷先生の就職重視の姿勢がある。就職活動開始の時期ともなると、就職希望のゼミ生に2~3時間以上かけた個人面談をして、本人の希望する就職先に向けて実践的な策を練ってくれる。
「商学部の学生にとって就職はもっとも大切なことですから……」
こんな優しいことを言ってくれる親身な大学の先生がいかに例外的な存在か、やがて君たちも思い知ることだろう。まさに一生モノの熱きプロフェッサーといえよう。
こんな生徒に来てほしい
わたしのゼミにいるのは、バンカーか銀行系のSEをめざす人が大半ですから、そのつもりで仲間といっしょに勉強したい人に来てほしいですね。明治大学は「個を強くする大学」を謳っています。しかし私としては個を強くするだけでは不十分で、強くした個を世の中の組織のなかで役立てられるようにならないと全く意味がないと思っています。つまり1人ではたいした結果は出せないが、組織のなかで協力することこそ大きな仕事につながるのです。こうした考えに賛同する人なら大歓迎です。
さらにいえば、銀行など金融インフラで働く人は他の人から信頼されることが大切となります。ですから個をむき出しにして競う人より、「誠実で親切でまじめな人」のほうが向いていると思いますよ。

