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Good Professor

坪村 太郎

坪村 太郎 教授
成蹊大学
理工学部 物質生命理工学科

つぼむら・たろう
1958年東京生まれ兵庫県育ち。86年東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻博士課程修了。86年成蹊大学工学部助手。91年同助教授。00年同教授。05年学部改変により現職。主な著作に『生物無機化学』(共訳・東京化学同人)がある
なお坪村先生が主宰する「応用錯体化学研究室」Webサイトのアドレスはコチラ → http://www.ch.seikei.ac.jp/tsubomura/

錯体の光化学研究におけるトップリーダー

実験室において熱心に指導する坪村先生
実験室において熱心に指導する坪村先生
坪村研究室のある12号館「ハイテク・リサーチセンター」
坪村研究室のある12号館「ハイテク・リサーチセンター」

成蹊大学というと、シティー派の文科系大学の典型というイメージをもつ高校生諸君も多いかもしれない。しかし実は理工学部をもつ総合大学としての顔もあるのだ。そして今回ご紹介する理工学部物質生命理工学科の坪村太郎先生のような世界的な研究者・恩師も数多く在籍する。はたして坪村先生の所属する物質生命理工学科とはどのような学科なのか? そのあたりからお話を伺っていこう。

「成蹊大学に限らず今の大学理工学部というのは、昔ながらの機械工学とか化学・物理というような分野分けでは間尺に合わなくなってきました。それだけ境界領域の発展が近年著しいのです。物質・化学・生物を3本柱にして境界カテゴリー領域について学び研究するのが本学の物質生命理工学科ということになります。ただ学生への実際のカリキュラムにおいては、最先端の研究に入る前に基礎教育を徹底して学んでもらうことにはなりますけどね(笑)」

そんな坪村先生の専門は「錯体化学」と「光化学」。この「錯体」とは金属元素と有機物の化合物のことで、これまでは石油製品生産の触媒として使われてきた。

「この錯体というのは実は生物内でも使われています。人体の血液中のヘモグロビンは鉄の錯体ですし、植物の光合成に必要なクロロフィルはマグネシウムの錯体です。わたしの研究室では、新しい錯体合成を次々と行なってはその構造や性質を日々調べています」

いまや若くして錯体の化学研究における世界的トップリーダーとして活躍する。先ごろもイギリスの権威ある化学専門誌の表紙にある錯体の模式図が掲載されたが、その錯体を合成したのは誰あろう坪村先生であった。

省エネ発光素材への期待で一転「時の人」

坪村研究室メンバーの集合写真
坪村研究室メンバーの集合写真
発光現象を示している錯体の一例
発光現象を示している錯体の一例

こうして人の手で合成された錯体はおびただしい数にのぼるが、そのなかには発光をするものがある。この錯体の発光現象の解明こそが現在の坪村先生の中心的な研究テーマとなる。

「じつは錯体の発光について研究している研究者など以前は世界中にも少数しかいませんでした。錯体が発光したからといっても何の役に立つのか――そう思われていたからです。ですから、そんな研究をしている私などオタク的な変わり者の研究者などと見られていたようなのです(笑)」

ところが、ここに来て「発光する錯体」に注目が集まることとなる。有機エレクトロルミネッセンス(有機EL=Organic Electro-Luminescence)の新たな発光材料として錯体が効率的な素材であることが分かってきたからだ。

ケータイ端末やテレビ・パソコンなどの液晶ディスプレーへの利用のほか、照明機器・家電製品のための新たな省エネ光源素材としての応用にも期待されている。すでに一部では実用化も始まっている。そして、かつての「オタク的研究者」坪村先生は大脚光を浴びることになる。いまや「時の人」という存在なのだ。

「有機ELの最大のメリットは、現行のものと同じ明るさを求めるのに消費電力が少なくて済むということにあります。これまで非常に地味な研究という評価を受けていたわけですが(笑)、将来は照明機器のほぼ全てが錯体発光による有機ELに置き換えられるという予測もあったりして、なんだか話のスケールが急に大きくなってきましたね」

発光錯体研究のパイオニアとしてこの分野をリードする坪村先生だが、大学時代にこの存在を教えてくれた恩師があったらばこそとも語る。その恩師にはいまも感謝の念を忘れたことがないとも。このあたり非常にまじめで人情にも熱い人柄の一端がうかがえる。

「オリジナル錯体」の合成が卒論の条件

大学正門へと続く成蹊名物のケヤキ並木
大学正門へと続く成蹊名物のケヤキ並木
幾多の卒業生を見届けてきた0号館「本館」
幾多の卒業生を見届けてきた0号館「本館」

成蹊大学理工学部の学部生は、3年次後期から各教員の研究室に配属されて各卒業研究に立ち向かっていく。坪村研究室では例年定員いっぱい12人の学生を受け入れている。人気の研究室だけに希望者は定員の倍ほどにもなるらしい。なお物質生命理工学科においては、学生の研究室配属などは学生同士の話し合いで決めるというユニークな方法をとっているという。

「研究室入りした3年次の学生は、まず英文で書かれた原書文献を講読して、錯体への理解を確定的にしてもらいます。そのあと4年次では基礎的な錯体をひとりずつ全員に合成してもらいます。各自合成したものは分析まで自らやって、その経験のなかから自身の卒業研究のテーマを決めていきます」

この卒業研究においては、世界唯一のオリジナルな錯体の合成が義務づけられている。この合成が1度の実験で成功してしまうラッキーな学生もいれば、何回も失敗を繰り返しながら卒業直前になってやっと成し遂げる人もいるようだ。

「おそらく社会に出ても同じ研究が続けられる人はまずいないと思います。ここで身に付けてほしいのは、錯体の研究を通して実験研究の一般的な手順――計画し実験し分析していく――そうした手順についてですね。そして何より自分で考え抜く能力も身に付けてほしい。そう思ってずっと学生指導にあたっています」

世界的発見をする可能性大の学問分野

情報図書館の内部には近未来的な設備も
開館したばかりの1号館「情報図書館」
情報図書館の内部には近未来的な設備も
情報図書館の内部には近未来的な設備も

坪村先生のそうした熱き日々を支えるものの根底には未知なるものへの飽くなき好奇心があるという。化学の世界にはまだまだ未知のことが多く、じつに魅力に満ちた研究分野なのだ。そして、こう力説する。

「化学というのは学問的には未開なところの多い学問なのです。近年になって隣接する他の理系分野はコンピューターを駆使してかなりのところまでシミュレーションできる研究体制になっています。ところが化学の世界は机上の計算通りにいかないことが多く、いまだに実際に実験してその結果を解析するまでどんな反応が起こっているのかが分からないことが多いのです。その意味では、初心者でも世界的な大発見をする可能性のある学問分野ともいえます」

そこが化学の難しさでもあり面白さでもあるというわけだ。現役の高校生諸君であっても「化学マニア」にとってはこれ以上ワクワクさせられる話もないだろう。「世界的な発見」はともかく坪村研究室に入れば世界で自分だけの錯体の合成ができることは確実だ。それこそ心躍る一生モノの経験となるに違いない。

ここ成蹊大学は、若者に人気のあるアーバン新都心・吉祥寺に立地している。しかも文系から理系までが4年間同じ敷地内にあるワンキャンパス制の大学というのも大いなる魅力となろう。

「そのため学生同士や教員と学生との距離が近くて親密なのが特徴です。また部活やサークル活動でも文系と理系の学生がいっしょになって活動していますし、非常に雰囲気のいいキャンパスだと思いますよ。ぜひ一度見学に来てほしいですね」

そして、微笑みながらも坪山先生は最後にこうも言う。

「くれぐれも成蹊大学には理工学部があることを忘れないでくださいね」

こんな生徒に来てほしい

やはり若者らしく何にでも興味をもてる人がいいですね。だからといって教科書や参考書に書いてあることを全部覚えるような無茶は必要ありません。化学でしたら「化学Ⅰ」で十分です。ただし、その基礎的な素養だけは身につけて来てほしいですね。

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