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Good Professor

森茂 岳雄

森茂 岳雄 教授
中央大学
文学部 人文社会学科 教育学専攻

もりも・たけお
1951年岐阜県高山市生まれ。75年東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程学校教育科卒業、77年東京学芸大学大学院教育学研究科学校教育専攻修士課程修了、84年筑波大学大学院教育学研究科社会科教育学専攻博士課程単位取得満期退学。87年より武蔵野音楽大学音楽学部専任講師となり、92年から東京学芸大学教育学部助教授、99年に同大教授。2000年より現職。主な著作は『越境する民と教育――異郷に育ち地球で学ぶ』(アカデミア出版会)『入門ハワイ・真珠湾の記憶――もうひとつのハワイガイド』(明石書店)『社会科教育の世界――歴史・理論・実践』(梓出版社)『多文化社会アメリカにおける国民統合と日系人学習』(明石書店)『多文化主義のアメリカ――揺らぐナショナル・アイデンティティ』(東京大学出版会)『多文化主義と多文化教育』(明石書店)など。
ちなみに森茂先生が主宰する「森茂岳雄研究室」のWebアドレスはコチラ → http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~morimo/

教育現場であるべき真の国際化とは

森茂研究室がある中央大学文学部「総合棟」
森茂研究室がある中央大学文学部「総合棟」

つぎに掲げた公立小学校の数字から君はなにを想像できるだろうか?
・新宿区立大久保小学校 約60%
・横浜市立いちょう小学校 約53%

じつは両小学校に在籍する総児童のうち、外国籍あるいは外国にルーツをもつ(日本国籍をもつが海外から移住した親をもつ者を含む)学童数の割合なのだ。このうち大久保小学校では、日本語で学校から発行される「学校だより」がボランティアによって中国語・ハングル語・タイ語・英語などに翻訳され、それぞれの児童の親に渡されている。

このように一般の日本人が考えている以上にこの国の国際化・グローバル化は地域によっては意外なほどのスピードで進んでいる。こうした状況のなか、今週ご紹介する中央大学文学部の森茂岳雄教授の研究に注目が集まっている。

そんな森茂先生の専門は「多文化教育」と「国際理解教育」。このうち多文化教育とは、一国内の多様な文化をもつ人々の相互理解との共生をめざす教育のあり方を研究する学問のこと。また国際理解教育とは、グローバル化していく世界における他国理解、さらに人権・平和・環境・開発といった地球規模の諸問題の理解とその解決に向けての資質の育成をめざす学問分野ということになる。

「わたしは教育学の中でも具体的なカリキュラム開発や授業案づくりなど教育現場により近い研究をしています。たとえばブラジルやハワイなどに移民した日系人の文化を理解させるため、紙芝居やカルタを活用した教材を作ってみました。そのカルタの札には現地の文化や移民の歴史などが簡潔に説明してあります。そうしたカルタ教材を子どもたちに渡すだけで自主的に遊び始めるので、いつのまにか日系移民への理解が自然に深まっていくわけです」

自らの研究の一端について和やかに語る森茂先生。その周囲にはどこか優しい空気が漂っているかのような印象も受けた。

差別意識の世代連鎖を断ち切る

雨けぶる中央大学多摩キャンパスの全景
雨けぶる中央大学多摩キャンパスの全景
雨けぶる中央大学多摩キャンパスの全景
雨けぶる中央大学多摩キャンパスの全景

実はこの国の外務省が移民事業から正式に撤退したのは94年のこと。わずか14年ほど前のことに過ぎない。それまで日本政府は明治時代以降ずっと国外への移民を推奨し、北米・中南米など世界各地に日本人を送り出してきた。

その一方で戦後高度成長期をへて国内労働力の不足が叫ばれるようになった90年代になると、一転して日系人をはじめとする海外からの労働者・研修生の受け入れを進めて現在に至る。しかし日系人の2世・3世たちの多くは日本語を話せなくなっており、日本の学校で学ぶ日系人の子弟への差別やいじめ・不登校・犯罪多発などの社会現象にもつながってきた。

もし日系人の受け入れにそれなりの準備期間が設けられ、異民族文化に対する相互理解が進められていたら……。そうすれば日系人・外国人をめぐる21世紀初頭のニッポン的状況とはもう少し違った「風景」もあったことだろう。

「異文化を理解し合い承認し合うために大切なのは、幼いころの教育と大人の認識なのです。子どもの意識とは大人世代の意識の再生産なのですから」

そう森茂先生は強調する。アメリカで行なわれた「ドールテスト」という有名な心理学上の実験によれば、3歳児に黒い人形と白い人形を渡すと、たとえアフリカ系の子どもであっても白い人形でよく遊ぶという。このように大人や社会・メディアによって「黒は白より劣等である」等といった意識が刷り込まれてしまっているからだ。こうして人種差別を含めあらゆる負の意識・文化は世代を超えて再生産していってしまう。

「真珠湾攻撃」にも多様な視点が

最寄りモノレール駅から中大キャンパスを遠望
最寄りモノレール駅から中大キャンパスを遠望

だからこそ教師を対象にした国際理解教育に森茂先生は力を入れてきた。米ハワイで毎年開かれる東西センター主催の「パールハーバー教育ワークショップ」の日本側スタッフのひとりとして日本人の教師たちを引き連れて参加してきたのもその一例となる。

04年から始まったこのワークショップ、今年08年は20人もの日本人教師が参加を得て1週間ほどハワイに渡る予定だという。そこで真珠湾攻撃の史跡等をめぐって「リメンバー・パールハーバー」についての多様な「声」を聞き、30人ものアメリカ人教師と熱心にディスカッションもする。

「旧日本軍による真珠湾奇襲攻撃については様々な立場があることを認識することが重要です。たとえば41年当時のハワイには多くの日系人が住んでいました。彼らからみれば母国から自分たちの島が攻撃されたことになります。ポリネシア系の先住民にとってはもっと複雑です。もともと豊作・豊漁を願う儀式を執り行なう神聖な場所だったパールハーバーを最初アメリカに取り上げられて軍港にされ、つぎに日本にメチャクチャにされたわけですから。こうした多面的な視点があることを知ったうえで、日本での授業に生かすために日本人教師みんなで討議を重ね、教材や授業プランを作成していきます」

このワークショップに限らず森茂先生の研究スタイルは常に「現場」を意識した形で進められている。教育現場はもちろんのこと地域のコミュニティーや行政などとの協力も欠かせない。そして森茂ゼミの学生たちも、こうした「現場」に参加しながら学んでいく。

だからであろう。森茂先生やゼミの主催する研究会には多文化教育や国際理解教育に関心をもつ多くの若い研究者や院生たちが集まってくる。先述した紙芝居のストーリーや絵を描いたのもゼミのOBやOGたちなのだ。

「ゼミ生全員が必ずしも教師を志望しているわけではありません。卒業後の進路もさまざまです。国際協力に興味があってゼミに入ってくる学生もいます。ただ実際のいろいろな現場での体験は、学生たちの学ぶ意欲の形成への大きな刺激になっているようですね」

じつは中央大学文学部人文社会学科の教育学専攻には、必修科目としてフィールドワークを求める「教育実地研究」がある。この科目を修めるにあたって学生たちは自らテーマを決め、その取材先にアポイントを取り、報告書にまとめなければならない。こうした現場での学びに力を入れている教育学専攻の姿勢もゼミ生たちの学習意欲にも影響しているのだろう。

中央大学の教育専攻は文学部のなかでも比較的人気があるが、その合格人数は学部内である程度対応できるともいう。そうした点でもおすすめの専攻といえよう。

こんな生徒に来てほしい

自らにとって未知なるものに対して意欲をもって主体的に学ぶ人に来てほしいですね。自分なりの使命や理想をもって社会に貢献したいという学生にもぜひ入ってもらいたい。必ずしも教員志望である必要はありません。国際理解教育や多文化教育に興味のある人にとっても様々な研究の場を提供できると思いますよ。

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