- 若原 徹 教授
- 法政大学
情報科学部 ディジタルメディア学科 1952年岐阜県生まれ。77年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。77年日本電信電話公社(現NTT)入社。同基礎研究所・ヒューマンインターフェース研究所などで主任研究員・主幹研究員など歴任。91~93年郵政省(現日本郵便)郵政研究所に出向し主任研究官。01年NTTを退職し現職。主な著作に『パターン認識・理解の新たな展開』(電子情報通信学会)『Progress in Handwriting Recognition』(World Scientific Publishing Co. Pte Ltd.)などがある(著作はいずれも分担執筆)。
ちなみに「若原研究室」紹介ページのWebアドレスはコチラ → http://cis.k.hosei.ac.jp/research/laboratory/digital/wakahara/index.html
「パターン認識」研究のトップリーダー

- 若原研究室のある小金井キャンパス西

- 情景内濃淡文字の抽出パターン
今週ご登場願うのは法政大学情報科学部の若原徹教授。コンピューターによるパターン認識の分野では世界的なリーダーとして知られ、その周りには紳士的な落ち着いた雰囲気が漂う。その研究内容については追ってお聞きするとして、まずは所属する法大情報科学部についてお話を伺おう。
「情報科学部は2000年に開設された新しい学部で、『コンピュータ科学科』と『ディジタルメディア学科』の2学科からなっています。学部設立のミッションは『次代を担う情報技術者の育成』をねらいとして、これまで欧米主導でなされてきた情報科学の概念づくりを日本からも発信する――そのことに尽きます」
法大情報科学部は2学科制を敷いているが、そのカリキュラムは情報科学を網羅するように融合的に編成され、専門科目の履修や卒業研究は学科の枠にとらわれずに行き来できるようになっている。さらに、こんな特徴的な制度も用意されている。
「この学部では、1年次から学生が希望する教員の研究室に所属してゼミ形式の受講ができる『情報科学プロジェクト』という制度を設けています。所属する研究室は春・秋のセメスター(前・後期学期)ごとに変えることができます。またその研究室が気に入れば、1年次春セメスターから4年次の卒業研究まで続けて所属することも可能です」
これらの画期的なシステムは学生たちにも好評で、学習意欲の向上に大きくつながっていると若原先生。さらに学生全員への情報科学部特注の最新ノートPCの貸与、数学と英語が苦手な学生への補習授業、逆にプログラミングが得意な学生には特訓クラスの実施など、至れり尽くせりの環境が整えられている。
人間の能力に迫る「情景内カラー文字認識」

- 法政大学小金井キャンパスの正門付近

- 理系学群が集結する小金井キャンパス全景
ところで若原先生が取得している特許は米国特許2件を含め19件にものぼり、その大半が「手書き文字認識」に関するものとなる。先生はNTT研究所勤務時代に郵政省郵政研究所に請われて出向して手書き郵便番号と宛名の文字認識技術コンテストを企画・実施したが、これはコンピューターによる手書き文字認識技術についての研究実績や見識が国内外で極めて高く評価されていたからに他ならない。
この分野において日本のトップリーダーということは、世界のトップリーダーということを意味する。現在もその地歩を守っている若原先生だが、現時点での研究テーマのいくつかを挙げてもらった。
「わたしの研究は大きく『パターン認識』が専門となります。現在研究しているテーマとしては、①手書き文字(特にくずし文字の認識)②情景内カラー文字の抽出・認識③顔画像の検出・認識④動画像からのジェスチャー認識⑤指紋画像の照合⑥ヒューマンインタラクション(コンピューターと人間との円滑なコミュニケーションを実現するシステム)などがあります」
このように若原先生の研究分野は多岐にわたる。そのいずれもが世界のトップを走り、ほかの追随を許さない。そんな先生がいま最も力を入れているのが、②の「情景内カラー文字の抽出・認識」。我々人間は街の情景を見てすぐに建物や道路・看板などを識別し看板の文字もごく自然に読んでしまう。しかしコンピュータにとってはこの識別が容易でない。さらにカラー文字やデザイン文字を情景から抽出して認識するのも大変な困難を伴う。先生の研究での認識率は現在90%を越え、この分野の認識率としては驚異的な数字を誇るのだ。
こんな話がある。この情景内カラー文字認識のコンペティションが海外で計画されたことがあったが、1件の応募もなかったという。それほどに若原先生の研究は他を圧倒しているのだ。さらに国際会議等で成果を着実に発表しながらさらに研究を進めて、再度コンペ競技会が企画されたらぜひ応募して優勝をねらうと力強く語られた。
顔認識についても、正面顔の場合は99%以上の認識率を達成。今後は横顔などさまざまな姿勢での表情を認識する研究に挑みたいとする。いたってその語り口は物静かな先生だが、こと研究になるとどこまでも貪欲なのである。
オリジナルの課題設定ができる人になろう

- 西館棟壁に輝く法政大学のロゴマーク
法大情報科学部において1年次から好きな研究室に所属してゼミ形式の指導が受けられることは先に書いたが、それも3年次春セメスターまでのこと。3年次秋セメスターからは研究室を固定して卒業研究に励むことになる。若原研究室では例年7~10人の卒研生を受け入れている。
「わたしの研究室では3年次春セメスターの情報科学プロジェクトから卒業研究を見据えて動画像を用いた顔・ジェスチャー認識や情景内カラー文字認識などから最も興味のあるテーマを選んで研究を始めてもらいます。そして秋セメスターに入ると本格的な卒業研究として取り組むことになります」
こうしたパターン認識の分野では公開データベースを活用して世界トップの研究機関と競合しながら研究を進めていくことが大きなインセンティブ(動機付け)になると若原先生は教えてくれた。あらためて学生たちへの指導方針については次のように語る。
「なによりも学生自らが良い課題・問題を設定できるようになるのを目指して指導しています。良い課題設定というのは、学問の本質的な発展に寄与するもので欧米の後追いやマネごとでないものですね。非常に難しいことですが、これこそが最も大切なことでもあります」
「それに自分でやり遂げたことを人前で発表することの大切さですね。人前で発表するためには、論理の組み立てや分かりやすい表現、さらに聞く人にインパクトを与える工夫などが必須の条件になります。研究成果を他人に訴えることで、自らの表現能力が培われて自己実現の訓練にもなり得ます」
最後に高校生諸君に向けてこんなメッセージを寄せてくれた。
「大学で学ぶ4年間というのは決して長くありません。その4年間を終えるとき、何かひとつでも構わないので大学において自分はこれを成し遂げたという達成感を持っていて欲しいですね。それこそが一生モノの大きな自信につながると思います。高校までと違って大学というところは怠けようと思えばいくらでも怠けられる自由なところでもあります。だからこそ常に自分の足で前進する努力をしていてほしいですね」
パターン認識研究のトップリーダー若原徹先生。その口から発せられる忠告は肺腑にズシリと響く重さがある。
こんな生徒に来てほしい
何を研究するにも夢がないとやっていけないものです。その意味で、とくにパターン認識の研究は夢の多い研究分野といえるでしょう。これを素材にして夢への挑戦へ向けて興味を持ってくれたらいいですね。いま私たちの生活はあらゆるものがデジタル化していて、デジタルデバイド(情報格差)やコンプレックスに陥っている人もいます。しかし人間にできて機械にできないことは依然としてまだたくさんあります。とくにパターン認識や概念獲得の能力は人間にはるかに及ばないのが現状なのです。そうした能力をコンピューターに付与していく研究というのは挑戦的でなかなか面白いものですよ。

