- 下斗米 淳 教授
- 専修大学
文学部 心理学科 しもとまい・あつし
1961年東京生まれ。90年学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。学習院大学および帝京大学文学部助手をへて、95年専修大学文学部専任講師。98年同助教授。04年より現職。この間05年に豪クイーンズランド大学社会行動科学部招聘客員研究員をつとめる。主な著作に『自己概念と対人行動』(誠信書房)『はんらんする身体』(前著ともに共著・専修大学出版局)『自己心理学6 社会心理学へのアプローチ』(編著・金子書房)などがある。
先生が主宰する「下斗米淳 社会心理学研究室」のWebアドレスはコチラ → http://www3.psy.senshu-u.ac.jp/~simotoma/
社会心理学の定説「三位相説」の提唱者

- 下斗米研究室のある生田校舎4号館
今週ご紹介する専修大学文学部心理学科教授の下斗米淳先生は、初対面で取材するこちらが恐縮するほどの丁寧なことば遣いで終始笑みが絶えない。ビシッとジャケットを着こなすその周囲にはいかにも紳士的な雰囲気が漂う。そんな先生に専大心理学科のアピールポイントから話してもらった。
「まず徹底した少人数教育が挙げられます。1学年の学生定員50人に対し、学科教員9名と他学部所属心理学教員5名の合計14人体制で指導しております。ですから教員1人あたりの学生数は3~4人ということになります。これは1年次から4年次まで系統立って実験実習の授業を実施するうえで不可欠なのです。生身の人間を相手に行なう心理学の実験は大きな責任が伴いますので、どうしても教員の細かな指導や配慮が必要になりますからね」
1年次から実験実習を経験できるため学生には好評だそうだが、そのぶん教える側には苦労もあるようだ。
そもそも心理学には「実験心理学」と「臨床応用心理学」という2大カテゴリーに分けられるが、専大心理学科では最初からコース分けはしない。2年次後期になった時にそれぞれ学生と教員とで話し合って、当人の希望や特性・興味対象などから決めることになる。これらも学ぶ側の身に立った制度として同学科の特徴のひとつと言えよう。
さて、そんな下斗米先生は「社会心理学」と「教育心理学」が専門で、先の分類の仕方では実験心理学の1分野に属することになるものの、一方で臨床応用心理学領域にも研究対象が及ぶという。
「社会心理学といいますのは、他者の存在を前提として起こる人間の心の動きを研究対象とします。つまり対人関係や集団関係における心理状態の研究ですね。ですから私たちの生活のなかで起こる心理的作用や事象のほとんどはこの社会心理学の研究課題となります」
「もうひとつの教育心理学につきましては、学校組織や親子関係・友情・恋愛などの対人関係・集団関係のなかでストレスや苦悩なく自分らしい生き方をするためには如何にしたらいいのか、また自己はどのように発達・変容を遂げていくのか、そうしたことを考える心理学ということになります」
新たな視座からめざす自己発達過程の解明

- 斬新な建物が目立つ生田キャンパス
このうちの対人関係の親密化の過程を解明するための学説「三位相説」の提唱者として下斗米先生はひろく知られる。この三位相説はもちろん先生のオリジナルの学説だ。
「初対面の人同士が親密になるためには、まず親密な関係を築こうという主体的な気持ちが双方にないと成立しません。そのうえで最初に自らのことを語りつつ相手のことを知る『自己開示』の位相があり、つづいて両者の似ているところや違っているところを明確にする『類似・異質性認知』位相へと進み、さらに親密な関係を維持するための『役割行動の分担と遂行』位相を通じて、対人関係上の課題解決が図られていきます。これらの位相・周期の働きによって親密な対人関係は作り出されていくという考え方が三位相説の骨子になります」
この三位相説により対人関係の動きを研究したところ、親密化の過程には、その先々で新たな課題や葛藤に必ず起きることが分かってきた。しかし、そこでまた三位相を経ることにより対人関係はもっと親密で強固なものになっていく様子も観察できるという。「喧嘩するほど仲がよい」さらに「雨降って地固まる」という対人関係の動きも理解できる説なのだ。下斗米先生のこの三位相説は学会でも大きな反響をもって迎えられ、いまや現代心理学の定説として認められるまでに至る。
この説を実証するためには経時変化を調べる縦断的な調査が重要で、下斗米先生はいまも500人にも上る追跡調査をしてデータ収集を継続している。さらに最近では、この説を応用して自己発達の解明についても挑む。
「つまり、自己の成長や発達はどのようなメカニズムで出来あがっていくのか、また他者との関わりのなかで自己の発達変容はどう出てくるのか――こうしたテーマについても三位相説から解明できると考えております。現実に、さまざまな人の苦悩や自信、さらには引きこもりや薬物依存などの諸問題にも三位相説を応用することができるデータが得られています。人の適応的な暮らしに寄与する研究も現在手がけています」
こうした下斗米先生のお話は豊富な事例を引いたじつに丁寧なもので、心理学の基礎理論など門外漢の筆者にとっても興味の尽きないエピソードの数々であった。紙幅の制限もあってその全てをここに紹介できないのが非常に残念だ。
「各学生に合わせた指導」の自信の根拠とは

- 「120周年記念館」と多摩の街並み

- 竣工したばかりの「130周年記念館」
専修大学の心理学科のゼミ演習は3年次から始まる。各ゼミの定員は6人程度だが、学生たちの配属方法がとにかくユニークだ。
「まず学生が自ら研究したいテーマについて時間をかけて考えてもらいます。つぎに各学生はそのテーマの研究にふさわしいと思われる教員のいく人かを訪ねて1対1で話し合います。これにまた2~3週間ほどかけまして、その成果として具体的な研究計画書を学生が提出します。その計画書をもとに学科の教員全員で話し合いまして、ゼミ生の割り振りが決定していきます」
ただこの段階までは定員数を考えないで割り振っていくため、人気のある特定のゼミに学生が集中することにもなる。そうした定員を超えたところでは教員とゼミ生との個人的な話し合いがもたれ、その研究テーマにふさわしい別のゼミを紹介するなどして最終的な定員へと絞り込んでいく。
じつに複雑で手間のかかる配属方法ともいえよう。しかし学ぶ側の身になってこれだけの手続きを踏むからこそ、学生個々の研究に対するモチベーションが非常に上がるというのも頷けるところだ。そして下斗米ゼミが例年定員の倍を超える希望者の集まる人気ゼミであることは説明するまでもあるまい。そんなゼミの運営方針については……
「わたしの教育信条としてただ覚えさせるだけの講義は絶対にしません。とことん学生には自身の問題意識を育て考えてもらう授業を心掛けています。それはゼミでも同じことで、こちら側から研究テーマを指定することなどは一切しません。まず問題意識を芽生えさせるための指導を行ない、それについて私のほうから『なぜ?』『どうして?』を繰り返し問うて、具体的な研究課題や方法について煮詰めていきます」
こうしたことを徹底的に繰り返すことによって、各研究室生の問題意識が高まり鮮明になっていく。そうした学生やゼミ生への指導において心掛けていることについては……
「ありきたりな既製の枠にはめ込む指導ではなく、それぞれの学生の個性に合った指導方法を考えて自分で考え抜く力をつけてもらう。そのことを常に心掛けているつもりです」
あくまで学生1人ひとりを見つめて、それに合った指導方法をとるとまで言い切る下斗米先生。ここに「教え学ぶ」という教育の原点を見る思いがするのは筆者ばかりでなかろう。ただしこの国の大学教育の現場において、こうした存在がいかに例外的なものか、君たちもやがて思い知るに違いない。
こんな生徒に来てほしい
物事を考えるときに感覚的ではなく論理的に考える習慣がついている人が望ましいですね。それに付け加えるならば「人が好きである」「人に興味がある」というのが心理学を学ぶ人には不可欠な要件になります。私どもとしては、そうした素養を身につけている方々をお待ちしたいと思います。

