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Good Professor

山本 義春

山本 義春 教授
東京大学
大学院 教育学研究科

やまもと・よしはる
1960年東京生まれ。90年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。93年東京大学教育学部体育学健康教育学科講師。97年同助教授。00年同教授。この間91年カナダ・ウォータールー大学応用健康科学部研究準教授。99年米ニュージャージー医科大学神経科学部客員助教授。05年より理化学研究所客員研究員を兼任。主な著作に『AT――その変遷と新しい理解』『ATの話』(ともに共著・ブックハウスエイチディ)などがある。米スポーツ医学会「New Investigator Award」(95年)はじめ受賞多数。
ちなみに先生が主宰する「山本義春のページ」のWebアドレスはコチラ → http://www.p.u-tokyo.ac.jp/~yamamoto/

ヒト生体の「リズム」「ゆらぎ」研究の第一人者

山本研究室のある教育学部棟
山本研究室のある教育学部棟
東京大学本郷キャンパス正門
東京大学本郷キャンパス正門

今週ご紹介する東京大学大学院教育学研究科の山本義春教授(学部は教育学部を指導)は現役高校生諸君にとってまさに一生モノのプロフェッサーといえよう。初対面ながら都会派のスマートな雰囲気が周囲に漂う山本先生の専門は「教育生理学」。ちょっと聞き慣れない分野だが、効果的な教育を実施するためにはヒトの生物学的な成り立ちについての解明をする必要があると、約半世紀ほど前から世界に先駆けて東大を中心に始まった研究分野なのだ。

このうち山本先生は、生体における「リズム」や「ゆらぎ」が「身体」や「心」にどのように影響するのかについて研究してきた。無論この研究分野の第一人者と目されるのは言うまでもない。

「この『リズム』と『ゆらぎ』の観察は、健康な人間の身体を対象に秒単位から1日までのさまざまな時間スケールでなされます。この現象を詳しく調べていきますと、リズムの変調やゆらぎの減少が心や身体の異常と密接に関与していることが分かってきました。ヒトの生体のもつ時間情報の計測・解析法の開発から始めて、その生理学的意味の探求や工学的な応用までを視野に入れて研究しています」

そう語る山本先生は、世界で初となるヒトの時間情報(行動・身体活動量・気分など)をセンサー計測しデータを記録する腕時計型「生態学的神経行動ロガー」(エコログ)を開発したことで広く知られる。そして東大医学部の協力も得て、精神疾患患者や発達障害患者などを対象にこのエコログシステムを使用した時間情報の実測調査を始めている。この研究分野の第一人者といわれる所以でもある。

ただ、この画期的な計測器・記録計にも問題がないわけではないらしい。

「このエコログ開発によって精神疾患などの患者さんについての時間情報収集は十分に可能となりました。そのデータは膨大な量になります。しかし、これらを解析して正しい指標を導き出すための人材の不足が決定的です。こうしたデータの解析は数理的に分析処理されますから、きちんと理系的素養を身に付けた人材の育成が急務になりますね」

そうした人材を急ぎ育てるためにも、研究だけでなく学部の講義においても思わず力が入ってしまうという山本先生なのだ。

ある意味ニッポンの未来を拓く教育学の学際性・総合性

早春の東大シンボル・安田講堂
早春の東大シンボル・安田講堂

東京大学教育学部は、言わずと知れた日本における教育学研究の最高学府だ。ここでは、いわゆる学科制ではなくコース制を敷く。6つのコース(①教育学②比較教育社会学③教育心理学④学校教育学・教育創発学⑤教育行政学・生涯学習基盤経営⑥身体教育学)から構成される同学部の大きな特徴としては、所属以外の他コースの講義も自由に履修できることにある。このあたり山本先生は次のように説明してくれた。

「教育というのは、人間の成長や発達・成熟などすべてを包括するものです。こうしたプロセス全体を扱うのが教育学となりますから、とくに総合的な視野が求められる学問分野といえます。21世紀初頭のいま文理融合とか学際的研究などと盛んに言われますが、教育学分野においては以前から当たり前な考え方なのです。各専門分野を深く追究していくのと同時に広い視野も持たせるカリキュラムを実現するためにも、本学部にはこうした横断的な制度が設けられているのです」

数年前にある雑誌が掲載した全国の大学学部別の「就職力ランキング調査」において、東大教育学部が堂々の第1位を獲得した。ひろく教育学全般を学ぶ同学部学生ならではのバランス感覚の良さが受けているのかもしれない。ちなみに卒業生の就職先だが、教壇に立つ人は意外なほど少なく、マスコミをはじめ金融・通信・建設・メーカーなどの大手企業に就職する人も数多いという。

どの合格科類からでも進学できる東大「身体教育学コース」

新緑のイチョウ並木が清々しい
新緑のイチョウ並木が清々しい

さて山本先生自身が指導しているのは「身体教育学」のコースということになる。このコースでは一体どのようなことが学べるのか。

「このコースでは、①身体の形と機能②身体と心とのかかわり③さまざまな刺激が身体や心に与える影響④社会への適応や破綻⑤加齢による心身の変化⑥生活習慣や環境とのかかわりの中での発達の問題――など人間の心身の発達全般について学べます」

教育学部身体教育学コースの定員は1学年15人で、この15人を指導する教員陣は6人。さすが東大ならではの非常に恵まれた学習環境といえる。また入試時の文科Ⅰ類から理科Ⅲ類までの合格科類によって東大生は進学学部や学科が大きく限定されるが、この身体教育学コースだけは全科類からの進学が等しく認められている。天下の東大と言えども、こんなことは同コースだけだ。

「いま社会で起きている教育にかかわる様々な事象についてヒトの身体を中心に研究し、またそうした研究者・指導者の人材育成を目的にしています。ですから、この分野の研究には文理のカテゴリーを越えた総合的な広い視野と能力が必要になるわけです」

なんと! コース全教員による卒論指導が受けられる

イチョウの芽吹きとレンガ校舎

さらに東大身体教育学コースでユニークなのは卒業論文の指導であろう。いわゆるゼミ演習制を敷いておらず、各学生に対し6人全員の教員スタッフが指導していく独自の方法を採用しているのだ。

「まず4年次に進学した学部生それぞれに卒論の研究テーマを自由に提出してもらいます。それをもとに専門背景の違う6人の教員とで何度も検討を重ね、具体的な研究の方向性などを決めていきます。あとは学生側の主体的な研究に任せて、とくに指導教員は決めずに6人の教員全体で見守っていく方式でやっていきます」

小中学校以来これまで受け身一方で学習してきた今風のニッポン学生たち。その多くが挫折を知らずに難関を通り抜けてきたエリート学生たちだが、卒論研究にあたっては正解解答のない課題に事実上はじめて主体的に挑むことになる。その際このコースでは学ぶ側の自主性の尊重にきわめて重きを置くのはなぜなのか? それにしても6人もの教員に共同指導される卒論研究とは、何とも恵まれた条件で羨ましすぎるほどだ。

「それだけ身体の教育について学ぶ学生諸君には幅広い見識をもって欲しいわけです。これからの時代は『わたしは文系人間だ』『わたしは理系人間だ』などと狭く規定しても通用しなくなってきます。人間・教育をめぐる幅広い見識というのは、文理双方の知識をバランスよく身に付けていることが絶対条件となるからです」

今も昔も教育立国以外に未来の見えてこない極東の資源小国ニッポンに生まれ育った現役高校生諸君! まさに「金の卵」である君たちが運よく東大教育学部の難関を突破した暁には、山本先生はじめ一生モノの優秀なプロフェッサーが集う「身体教育学コース」の存在をぜひ意識してもらいたい。

こんな生徒に来てほしい

とくに若いうちはこの科目や分野はどうも苦手だというものを極力つくらないことですね。人間や教育について突き詰めていくと、どの学問の知識・方法論も必要となるときが将来やって来ます。たとえば生命科学研究の最先端では、人間の尊厳・倫理や宗教・哲学・人類史などの論点が絡み合ってきて、多方面のテーマが同次元的に検討されていきます。そうした状況で「わたしは宗教や哲学は専門外なので……」などと論じ合いの場から降りることは許されません。将来どの分野に進むにしても、人類知のすべてが必要になると言っても過言ではありません。そうした意味でも、受験科目に関係ある無しに関わらずどんな科目でも「食わず嫌い」をしない人に門戸を叩いてほしいですね。

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