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Good Professor

小暮 厚之

小暮 厚之 教授
慶應義塾大学 
総合政策学部 大学院 政策・メディア研究科(委員)

こぐれ・あつゆき
1954年群馬県生まれ。79年東北大学大学院経済学研究科修士課程修了。86年米エール大学大学院統計学部博士課程修了。福島大学経済学部助教授・千葉大学法経学部教授をへて、01年より現職。03~05年日本銀行金融研究所客員研究員を兼任。主な著作に『リスクの科学』(編著)『計量ファイナンス分析の基礎』(共著・前著ともに朝倉書店)『金融工学入門』(共著・東洋経済新報社)などがある。
先生が主宰する「小暮厚之@SFCホームページ」のWebアドレスはコチラ → http://web.sfc.keio.ac.jp/~kogure/

金融リスクの共通理論への挑戦

小暮研究室のあるSFCK(カッパ)館
小暮研究室のあるSFCK(カッパ)館
整然とした印象の初夏のキャンパス全景
整然とした印象の初夏のキャンパス全景

慶應義塾大学(SFC)総合政策学部の小暮厚之教授は、白髪交じりの端正な髭を蓄えた口から言葉を紡ぎ出すようにして語る。いかにも深く思索する研究者の雰囲気が醸され、メガネの奥の柔和なまなざしが人柄の温かさを物語るようだ。そんな小暮先生に、学際的・総合的教育をめざす慶大SFCの魅力から話してもらった。

「既存の大学学部における教育内容は非常に専門性が高くなっていく傾向にあります。一方でそれも最高学府のあり方の一面でしょう。しかし一方で若い学生諸君の長い人生と将来を考えますと、ひとつの専門に固定するのではなく、いろいろな分野について学んでおいたほうがリスク・ヘッジ(将来のリスクへの備え)にもなるわけです。それが実現できるのが慶大SFCといえます。より専門性の高い知識を求める学生にとっても、SFCを足場に慶大他学部の講義を履修することも可能となっており、その自由度の大きさが最大の魅力ででしょう」

文系から理系・芸術系まで多彩な学生と教員スタッフが集い、それらが自由雑多に交流することで互いに影響し合い啓発し合っていく――そうしたところこそが慶大SFCの最大の特徴とも語る。さて、そんな小暮先生の専門は「統計学」「計量ファイナンス」「リスク理論」ということになる。

「非常に難解な研究分野になりますよ(笑)」

そう前置きしつつ、自身の研究分野について次のように説明してくれた。

「元々は統計学を研究していたのですが、次第にファイナンス(金融市場)の方面に興味をもつようになりました。このファイナンスには、リターン(投下元本に対する収益の割合)とリスク(期待外れな投資収益率・損害)とが表裏一体の関係でありまして、現在はそのリスクの方面について着目して研究しています」

「金融工学」「保険・年金リスク学」の草分け的研究者

昼休み学生たちでにぎわう「厚生棟」
昼休み学生たちでにぎわう「厚生棟」

このリターンとリスクの関係を中心にモデル化した経済学体系を「金融工学」という。その学会は93年に発足したが、その設立メンバーとして小暮先生は名を連ねる。さらに「日本保険・年金リスク学会」の設立にも関わり、現在その副会長の重職にある。こうした分野における日本の草分け的存在なのだ。

「これまで金融工学を基礎に主に金融市場やコーポレート・ファイナンス(企業金融)のリスク諸問題について研究してきましたが、最近は不動産や保険・年金に関連するリスク、あるいは死亡や災害・環境など個人や一般企業にかかわるリスク、さらにはマクロ経済全般にわたる諸リスクの分析研究にまで範囲を広げています」

こうした金融リスク諸問題については個別的なものとして把握されがちだ。しかし小暮先生はこうした諸リスクには共通する基盤(リスク理論)があるのではないかと推論し研究を重ねてきた。

「リターンは目で見えますが、なかなかリスクは目に見えてきません。これをリスクの保険数理と金融工学とを基盤にして見えるように(モデリング)する研究に取り掛かっています。これが解明されると、ファイナンスはもちろん他の保険や年金・不動産などのリスクについても予測・対処ができるようになるわけですね」

さらっと言ってのける小暮先生。ただし、これは非常に難解な理論と数理の世界での話であることは言うまでもない。

「FE」「FC」経済理論を実証していく研究プロジェクト

貴重な人気憩いスポット「ガリバー湖」
貴重な人気憩いスポット「ガリバー湖」

慶大SFCではいわゆるゼミ演習制を採っていない。その代わり、各教員が主催する研究プロジェクトなるものが約200メニューも用意される。SFCは総合政策学部と環境情報学部とからなるが、学生たちは両学部の枠を軽々と跳び越えて、自身の興味と関心のあるプロジェクトに参加できる(もちろん各プロジェクトに定員もあるが)。しかも同時に違う教員のプロジェクトの2つにまで参加することも許される。

そこで小暮先生自身が主催する研究プロジェクトだが、「ファイナンシャル・エコノミックス(Financial Economics、FE)」と「ファイナンシャル・コンピュテーション(Financial Computation、FC)」に関するものの2つがある。

「前者のFEはいわゆる金融工学、後者のFCは計量経済学のカテゴリーに属する研究プロジェクトとなります。ただ理論だけを学んでも仕方ありませんから、日々起きる生きたデータを使いながら各経済理論を実証するようにしています。幸いSFCにはサイバートレーデングルーム(CTR)という情報端末施設がありまして、日本の大学では学部生でも唯一利用できますので、これらを活用しながら各プロジェクトを進めています」

「ベイズ統計学」の手法を駆使した新リスク理論を模索

ちょうど08年は慶応義塾創立150周年にあたる

小暮先生の研究プロジェクトの定員は双方とも15~16人ほど。学部生によるプロジェクト参加は3年次からという一応の決まりがSFCにはあるらしい。小暮先生のところでは大半が2年次からの参加で、なかには1年次の学生の参加もあるくらいだ。

「たとえ1年生でもプロジェクトに参加したいという意欲的な学生を断る理由はありませんからね(笑)。定員枠の許す限り参加を毎年認めています」

こうした小暮先生の研究プロジェクトでの特徴として、こと研究内容もさることながら、プロジェクト終了後に毎回のように先生を囲んで行なわれる談話会がある。

「教員側から一方的に指導していく講義と違って、この研究プロジェクトは私を含めたメンバー交流の場であるとも思っています。ですから研究会終了後に全員でそれぞれ自由に好きなテーマで語り合うようにしています。このときの話から私自身が啓発されることも多いですからね」

談話会は毎回2~3時間にも及ぶ。毎回それだけの時間をかけて教授を囲んで親しく語り合う。こうした経験は学生たちにとって若き日のそれこそ一生モノの貴重な思い出として胸に刻まれることだろう。

ところで今年08年度は小暮先生にとって特別研究期間にあたり、いったん教壇を離れて個人的な研究に明け暮れる毎日らしい。その目下の研究テーマは「ベイズ統計学」(Bayesian Statistics)という新たな統計学手法を駆使して新リスク理論に結びつけるというもの。じつは先生はこのテーマに絞った研究会を研究プロジェクトOB・OGを対象に毎月1回開いてもいる。

こうして小暮先生の全身全霊を傾けた研究と指導は、現役学生ばかりか既に卒業したOB・OGにまで及んでいるのだ。まさに一生モノの恩師プロフェッサーの極みというべきだろう。

こんな生徒に来てほしい

ますます混迷化を深めていく様々な社会的な諸難問を自分の問題と絡めて考えられる人がいいですね。社会や世界というものは、自分ひとりだけでなく他にもたくさんの人々がいて成り立っています。そうした地球中や日本中・地域中の人々の利益を考え、みんなの幸せを追求できるような人ならさらに素晴らしいですね。いわゆる勉強ができるに越したことはありませんが、そうでなくても慶大SFCは勉強以外の諸能力も発揮できる環境がそろっています。また自分自身でも気づかなかった能力を発見する場でもあります。

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