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大学プロデューサーズ・ノート 【早稲田塾】

メディア・リテラシーの教育が必要だ

マイスターです。

■子どものインターネット利用規制について思うこと

先日の記事で、

「インターネットのフィルタリングは必要だけど、単にフィルタリング済みの携帯を渡して終わりというのではなく、情報を制限する理由や、線引きの根拠などについて教え、考えさせることとセットである必要があるのではないか」

……と書きました。
そうでないと、

「情報には信用できるものと、できないものがある」、
「情報は何らかの意図を持って発信されており、その意図を読み解く必要がある」

……といった、重要なことがわからないままになってしまいます。
それでは、おそらく今後も拡大し続けるであろうインターネットを適切に活用することはできないでしょう。

「まだ幼いから、フィルタリングで保護しよう」という発想だけでは、フィルタリング制限の対象年齢を過ぎた後に問題が起きるだけです。
フィルタリングは、子ども達を段階的にメディアに慣れさせるための手段の一つに過ぎないのですが、日本の議論では、フィルタリングを行うことがゴールであり、目的そのものになってしまっているようで、心配です。

というわけで、大学と直接関係ない話題が続いて申し訳ないのですが、今くらいしかタイミングがなさそうですので、今日もメディア・リテラシーについてご紹介したいと思います。



マイスターが学生時代に受けていた授業で、マスメディアの報道について考えさせるものがありました。

あるときの教材は、NHKかどこかで放映された、とあるドキュメント番組。
「トルコ大地震が起きた時、各国がどのように災害現場に支援を行ったか」を扱った、いたって真面目な番組でした。
最初に、災害現場(仮設村)での取材映像が流れて、それに関してスタジオのコメンテーター(ゲストの有識者を含む)がコメントをするという構成で、日本とドイツの災害支援の様子が比較されていました。

授業の中で、この番組を丁寧に分析しながら見てみると、

○日本の仮設村の映像は、雪が降ったり、雨が降ったりしているときのものだけ。日がささず、暗い天気の日の、室内の映像ばかりで構成されている。また、住居から水が漏れたり、住人達が寒さに凍えたりしている様子ばかりをクローズアップして撮影している。登場人物はみんな、しかめっ面の大人や老人。
それに対し、ドイツの仮設村を映す時は、必ず気持ちの良いぽかぽかの快晴。しかも子供達が遊び回り、住人達が楽しく外で会話している様子だけを撮影している。出てくる人はみんな笑顔。

○日本とドイツそれぞれについて良い点、悪い点があったはずだが、日本の仮設村でのインタビュー取材ではデメリットに関する意見だけを、ドイツ側の取材ではメリットに関する意見だけを取り上げて放映し、「日本の支援を評価する住民はいませんでした。誰も感謝しておらず、むしろ迷惑がっていました」という論調に仕立てている。

○トルコ⇔ドイツ間の距離と、トルコ⇔日本間の距離はかなり違うし、国家同士の関係も異なる。従って、できることにも差があって当然のはずなのに、番組中、誰もそうしたことについて言及をしていない。 「ドイツの支援は素晴らしいですねぇ。心がこもってますねぇ。それに比べて日本は…」という視点での意見ばかりを流している。

○スタジオのコメンテーターが、工学技術の専門家だけ。
(当然、技術者は、技術的に優れているか否かのコメントしか出せない。しかも司会が「○○先生、この仮設住宅には、技術的に改善すべき点がどこかにあるんじゃないですか?」など、Yesとしか答えようがない質問ばかりする)
国際支援に関する専門家や、支援活動の経済的、地理的側面を知る実務経験者、NGO活動などに関する専門家などは一人もコメンテーターに含まれていなかった。

…などなど、数多くの仕掛けがなされていることがわかりました。

「日本の支援は全然なっていない。誰にも感謝されていないじゃないか。これじゃ税金のムダだ。もっと他の国のやり方を見ならうべきだ」と、つい「印象で」思ってしまう番組構成でした。

でも冷静に考えてみれば日本の支援だって、仮設住居に入れた人にとってはありがたかったでしょうし、感謝している人も少なからずいたはずです。
そもそも国際関係学的、地政学的に見て、トルコで、ドイツと同レベルのことを日本が行う必要性があったかどうか。完全ではないかも知れないけれど、できる範囲で、適切な対応をとったと言える部分もあるわけです。
(授業の中では、番組では紹介されなかった様々なデータが紹介されたのですが、データを見る限りでは、日本はわりとよくやっているという感じでした)

「日本の支援はなってない。現地の人のニーズをわかっていないし、支援される物資も貧弱だ。それに比べて、ドイツなどの支援は素晴らしい」…ということを訴えるために、意図的に映像が構成されていたために、番組構成上、不都合になる事実は出てこなかったのです。
あぁ、演出された映像の恐ろしさ。


日本では、まだまだ、情報リテラシー、メディアリテラシーに関する教育は遅れています。

しかし国によってはインターネットが登場する以前から、メディア、特にマスメディアを読み解くための教育が行われています。

というわけで、マイスターが、情報リテラシー、メディアリテラシーに関するいい教科書はないかと思い、図書館や書店を探しまわって見つけた、これはと思える本をご紹介します。



様々な本を読んでみて、上記の本が一番、マイスターが思う情報リテラシーやメディアリテラシー教育に近い内容でした。
カナダの、オンタリオ州教育省がまとめた本です。

この本は、教師が授業準備をする時に参考にするためのマニュアルとして書かれていますので、具体的なアドバイスも多く、非常にイメージが掴みやすいです。


この本、何がいいかって、1992年発行なのです。(カナダでの発行は、1989年)

つまり、インターネットに関する内容が、まったく含まれていないのです。

この本が扱っている「メディア」とは、

○テレビ
○映画
○ラジオ
○ポップ・ミュージックとビデオクリップ
○写真
○プリント・メディア
(&クロス・メディア研究)

…のことです。

  <情報、メディア>
 = インターネット
 = コンピューター室での演習

という固定観念を持っていると、かえって、メディアリテラシー教育の本質を見誤りるのではないかというのが、マイスターの持論です。
なのでその意味では、まさにうってつけの参考書なのです。


書かれている内容は、体系的かつ具体的。
本書の大部分は、上述した各メディアに関する、わかりやすい授業マニュアルで構成されています。

例えばテレビの場合、

・テレビの歴史
・テレビの経済学
・テレビの影響力

といった、教師のための前知識解説から始まり、

<テレビのリアリティ構成>
・テレビの登場人物について考える
・テレビでの、家族の描かれ方について考える
・テレビでの描かれ方と、実際の存在との違いについて調べる
・テレビの演出と、文学の演出の違いについて調べる
・観客の影響について考える
・テレビの「有名人」について考える

・テレビの「ジョルト(インパクトを与えるための演出)」について
・サウンドトラックの音楽について
・スポーツのテレビ化について
・善玉と悪玉の描かれ方について

・様々な種類にの番組についてのケーススタディ
・テレビの商業的背景

などなど、非常に多様な面から、テレビというメディアにアプローチするための方法が用意されています(上記は各項の大体の内容を書き出したものですが、本書にはもっと詳細かつ具体的に、教育現場で実践するための例が書かれています)。
上記の項目をすべて実践するのが難しい場合は、どれか行いやすいテーマを選んで実践すればいいと思います。

メディアリテラシー教育では、インターネットよりもまずは既存のマスメディア、特にテレビについて教えることが必要です。
現在はインターネット上のコンテンツばかりが悪者扱いされていますが、人々への影響力という点では、テレビの存在の方が圧倒的に大きいのですからね。
(大人だって、テレビと適切につきあえているかどうか、怪しいものです)

ですのでぜひ、上記のような多様なアプローチをお試しいただきたいなと思います。

同書には、こうしたメディアごとの解説の他、「各教科カリキュラムのなかでのメディア」なんて内容も掲載されています。
国語、社会科(地理、歴史)、家庭科、科学とテクノロジー、美術、音楽、体育・保健衛生、数学での授業においてメディアリテラシーを教えるにあたってのアドバイスが紹介されています。
どの項もよく考えられていて、マイスター、非常に感心しました。

なかなか良い本だと思いますので、ご興味のある方はどうぞ。本来は初等・中等教育で実践されることを想定した内容ですが、大学で使ってもそれなりに新鮮だと思います。
このほかにも、良い本をご存じの方は、ぜひ、教えてください。

以上、メディア・リテラシーに関する教育の方法論について、参考となる本の紹介でした。


というわけで、2回にわたり、ちょっと大学から離れたテーマでお送りいたしました。
現在、フィルタリングに関する議論が盛り上がっておりますので、ちょうどいい話題かなと思ったのですが、いかがでしょうか。

以上、マイスターでした。

著者紹介

【倉部史記(マイスター)】

大学院修了後、Webプロデューサー、大学職員を経て現在、早稲田塾SOHKEN(総合研究所)・主任研究員。

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