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大学プロデューサーズ・ノート 【早稲田塾】

大学発の芸術作品を、公共空間の活性化のために使う取り組み

マイスターです。

「芸術家」の社会的地位の高さについて、日本と欧米の違いが話題になることがあります。
例えば、

「ヨーロッパやアメリカでは、芸術家の社会的地位は高い。アートの制作で地域に貢献し、市民の芸術教育にも関わり、社会を豊かにする存在として尊敬されている。芸術家が職業として認知されており、きちんとそれで生計も立てられる。

一方、日本では、一部の有名アーティストを除いて、ファインアートに携わる芸術家が生活を安定させるのは大変だ。芸術に対する支出に対して社会の理解が不足しており、とにかく名を上げるまでは仕事が来ない。芸術家を志すと、アートで生活ができるかと親や周囲が反対する。」

……という感じ。
こういった話、聞いたことありませんか?



実際には、ヨーロッパでも食べていけない芸術家はいるでしょうし、日本でもアートに関する仕事だけで食べていけている人はいるでしょう。それに、ある程度、名を上げないと仕事が来ないというのも、万国共通じゃないかな……なんてマイスターは思います。
ただ一方で、ヨーロッパやアメリカの国々で、芸術家が生活していけるような制度をうまく社会の中に織り込む工夫が発達しているのも、事実です。

そのひとつとしてよく知られているのが、「パーセント・プログラム」というもの。
正式には、「Percent For Art Program」と言って、施設の建設費のうち、0.5~1パーセント程度を、芸術品の購入や芸術環境の整備のために充てるよう、法や条例で義務づけるというものです。
現在では、ヨーロッパ各国をはじめ、アメリカの各州・各都市、オーストラリアなどがパーセント・プログラムを実施しています。

例えばカナダのケベック州は、公的予算によって建てられるすべての新築ビルについて、建築費の1% を芸術品に充てるよう定めています。
ニューヨーク市は、市の所有するすべての公的建築について、建築費の最初の2,000万ドルのうち最低1% を、2,000万ドルを越える部分については0.5% 以上を、芸術品に充てるよう法律化しているとのこと。

このパーセント・プログラムがあることで、公共施設には必ず芸術作品が設置されます。
ヨーロッパやアメリカに行くと、ビルの前のちょっとした広場にパブリック・アートが置かれているような風景をよく見かけますが、その裏には、こんな仕組みが存在するのです。
その結果、アートが散在する街並みが生まれ、都市の風景が豊かになります。市民は喜ぶでしょう。
また、常に一定の公的な資金が芸術家達に流れますので、芸術の支援にも繋がります。

さらに、このパーセント・プログラムで芸術作品を設置する際、「地元の芸術家の作品」を置くように、と制限を設ける国や自治体もあるのです。
こうした仕組みのおかげで、芸術家達が、地域に根付いて創作活動を行いながら、ちゃんと生活もしていけるというわけです。
そうすると、地域社会と芸術家の関係も密になります。芸術教育にも積極的に関われるようになるでしょうし、市民にとっても、芸術家は身近で、尊敬される存在になるでしょう。

芸術家の力を社会の活性化につなげる、なかなか良くできた仕組みだと思いませんか?


……と、こんな仕組みについて思い出したのは、↓こんなニュースを見かけたからです。

【今日の大学関連ニュース】
■「県庁あふれるアート 県立大生 きょうから作品展」(読売オンライン)

県庁を現代アートで飾り、県民に2010年に開催する「第25回国民文化祭」をアピールしようと、県は17日から県庁前広場と庁内の県民室で作品を展示する。16日、制作した県立大デザイン学部、デザイン学研究科の学生15人が飾り付け。同大学の島田清徳講師(43)は「お堅いイメージの県庁舎と、色彩豊かで柔らかな素材の作品が融合した。じっくり楽しんで」と鑑賞を呼びかけている。29日まで。

4月から、1人1点ずつ制作の準備をしていた。県庁では、午前10時ごろから作業し、夏の野草ネジバナをイメージし、遮光に使う薄地の布「寒冷紗」(長さ150メートル)をカーテンのように飾り、涼しさを表現した作品や、ラップや布、ワイヤでチョウを表し、花壇をより彩り豊かにする作品などが次々と完成。様変わりする庁舎の様子を、来庁者が興味深げに見守っていた。

(上記記事より)

岡山県立大学デザイン学部と岡山県の取り組み。
学生の作品を県庁に展示しようというものです。

県の教育活動の一環として、県の公共空間を展示場所として学生に提供する。
県民のために設置・運営されている大学の学生が、県民の公共空間を豊かにするのに貢献する。
とても理に適った取り組みだと思います。
こういう仕掛けがあると、県で暮らす皆さんにとって、大学の存在もより身近になるでしょう。

ただ上記は、2010年のイベントをアピールするための展示であり、設置期間も今月29日までに限定されているとのこと。でも地元における県立大学の役割や意義を考えたら、こういった取り組みは、毎年定期的に行ってもいいのではないかと思います。

というかマイスターが思うに、いっそ、県の公共施設には、県立大出身の芸術家、あるいは在学中の学生の作品を展示するスペースを、必ず設けるようにしてはどうでしょうか。

さらに言えば、パーセント・プログラムの仕組みを適用し、毎年、卒業制作の中からコンペで優秀作品を選出し、県の予算で買い上げるというのはいかがでしょうか。
それを、県内の公共施設や、公立学校などに設置するのです。
買い上げたお金は、芸術家のタマゴとしての奨学金として、制作者に渡すのです。

公立大学であれば、その気になれば実はそれくらいの取り組みができるんじゃないかと思います。
学生の力を使って地域を活性化したり、逆に公的な仕組みの中で学生を育て、地元に根付かせる工夫ができるのではないでしょうか。

全国の公立大学関係者の皆様、よろしければぜひご検討下さい。


ちなみに、私立大学にも、出来ることはあります。

■「西南学院大学の取り組み パーセントプログラム」(西南学院大学)

大学での学生生活。そこには、多くの若い皆さんが学問を追究し、人間としても大きく成長するための貴重な数年間が詰まっています。それだけに、その「背景」ともいえるキャンパスの美的環境をできる限り豊かなものにし、知識だけでなく、ゆとりやうるおいのある心を育めるように整えたい。そのような思いのもとに始められたのが「西南学院大学パーセントプログラム」です。このプログラムは、学内に著名な美術品を設置することにとどまらず、たとえば建築の外観や内装、ストリート・ファニチャーなどの細部にまで配慮して、キャンパス全体の空間の質を高めることであったり、コンサートやパフォーマンスを開催し、皆さんの芸術的感性や知的好奇心を育成する取り組みといったことも含まれます。こうして生まれた創造的で刺激的なキャンパス空間が、皆さんに快適な学習環境を提供し、加えて生活空間そのものに対する審美眼を高める一助となることを願っています。(略)
【西南学院大学パーセントプログラム】
「パーセントプログラム」は、正式には"Percent For Art Program"といい、新・改築される施設の建設費の0.5%~1%相当額をその施設の芸術環境充実のために使用する制度のこと。欧米では定着が進んでいますが、わが国、特に大学においてこの制度を採用しているケースは本学が初めてと思われます。本学では大学芸術環境推進委員会(現委員長森泰男国際文化部長、2000年発足)によって、2002年から進められています。
(上記リンクより)

西南学院大学は、大学内の施設建設にパーセント・プログラムを適用している、日本では珍しい大学です。学内の芸術環境を充実させることをねらいとして、2002年から進められているとのこと。
学生のためのキャンパス環境整備に、芸術を取り入れるというのは良いですね。


さて、これはこれで既に素晴らしいのですが、芸術系・デザイン系の学部学科を持っている大学であれば、この西南学院大学のパーセント・プログラムをさらに参考にして、

「学内の施設を建築する際は、必ず一定の予算を、卒業生、あるいは在学生の作品の購入に充てる」

……というパーセント・プログラムをつくることもできるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

もしかすると、パーセント・プログラムという名称を使っていないだけで、既にどこかの大学がそういう仕組みを持っていそうな気もしますが、まだの大学は、良ければご検討してみてください。

もっとも、学内の施設だけだと限界がありますので、例えば近隣の自治体や学校法人に対し、

「施設を建てる際は、パーセント・プログラムを実施してください!
 その際、コンペの運営などは大学が代わりに行って差し上げます!」

……なんて大学から呼びかけたりしても、面白そうです。
(この場合、参加するのは卒業生だけではないでしょうが、芸術の普及になるのですし、そこはカタいことは言わない方向で)


パーセント・プログラムという考え方を、大学と組み合わせることで、何か生まれそうな気がするのですが、いかがでしょうか。
面白いアイディアを思いつかれた方は、教えてください。

以上、マイスターでした。

著者紹介

【倉部史記(マイスター)】

大学院修了後、Webプロデューサー、大学職員を経て現在、早稲田塾SOHKEN(総合研究所)・主任研究員。

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