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大学プロデューサーズ・ノート 【早稲田塾】

スパコン凍結など、事業仕分け報道を見て思うこと

マイスターです。

ここしばらくのブックマークが、事業仕分け関連のニュースばかりになりました。
国全体に関わる問題ということもあり、メディアも、私達一般生活者の注目度も高かったということでしょう。

また国立大学の運営費交付金や漢方薬の保険適用など、科学技術や医療に関する重要事業が「仕分け」の対象になったこともあり、大学関係者(著名な研究者の方々や、学長など)も様々な場面でメディアに登場していたようです。



中でも、「科学技術立国崩壊」の象徴のように報じられていたのが、スーパーコンピューター(スパコン)の予算凍結。大学学長やノーベル賞受賞者の方々からも、仕分けに対する批判の声が上がり、メディアがこぞって報道したのは、皆様もご存じだと思います。

政府関係者からも見直しの声が上がる一方で、一部からは「そもそもスパコンにそんな大金をつぎ込む意義があるのか?」という意見も。
多くの方々にとって、科学技術について、改めて考える機会となったように思います。

科学技術と公的支出について考える上でわかりやすい例ですので、いくつかの報道をご紹介してみたいと思います。
まず「スパコン凍結」に批判的な意見の代表は、以下のあたりでしょうか。

■「ノーベル賞受賞者らが仕分け批判で集結 「世界一目指さないと2位にもなれない」」(ITmedia News)

■「【事業仕分け】最先端科学も“敗北” 「スパコン世界一」を否定 ノーベル賞受賞の野依氏憤慨」(MSN産経ニュース)

■「東大・平木教授、「世界一を目指すことはスパコンの宿命」」(INTERNET Watch)

■「予算凍結撤回を スパコン利用研究者団体が声明」(神戸新聞)

■「スパコン開発の「見送り」に大クレーム、事業仕分け判断に科学者ら」(Asahi.com)

■「事業仕分け:テレビで論争 スパコン復活容認の声相次ぐ」(毎日jp)

■「スパコン事業の継続など要望 井戸知事と矢田市長」(神戸新聞)

目立つのは、「スパコン開発そのもの」についての重要性を訴える声です。

スーパーコンピューターの技術開発には大変なノウハウの蓄積が必要で、一度、世界トップとの競争からおりてしまうと、再びキャッチアップするまでに数十年もかかる。科学技術立国を掲げている日本が「負け組」になってもいいのか。
他の国(例えば米国)は、むしろスパコンの研究開発予算を増やしている。世界の潮流と逆行している。

……と、そんな意見が少なくないようです。

また、スパコンを活用しなければ難しい科学技術研究の分野で、世界から遅れてしまうことを危惧する意見も聞かれます。
スパコンは科学技術立国のベースとなるものだから必要不可欠だ、といった声も、これに該当するでしょうか。

こうした意見を受けて、実際、政府関係者が「スパコン凍結」の見直しに言及し始めるなどの動きが起きているわけです。


一方ネット上では、スパコンの「仕分け」で起きた議論を受け、凍結に賛同する、またはこれまでの開発計画の見直しに言及する意見も出てきています。
以下、いくつかの記事をご紹介します。

■「『スパコン凍結』批判でかすむ事業仕分けの『そもそも論』」(IT-PLUS)

■「『スパコン予算カット批判』に反論 刷新会議の加藤秀樹事務局長」(J-CASTニュース)

■「スパコンは『小さな政府』に頼るな」(PJnews)

■「国策スパコンを事業仕分けで凍結、これはグッドニュースだ」(ITpro)

日経BP社のニュースサイト「ITPro」は、「次世代スパコンの国家プロジェクトは必要か」と題した特集を展開。NECなどが国のスパコン開発から撤退した経緯なども踏まえつつ、スパコンについて客観的な意見を紹介しています。

■「次世代スパコンの国家プロジェクトは必要か」(ITpro)

また、長崎大学などの研究チームがわずか3800万円で開発したスパコンが、国内最速の性能を出し、スパコン開発などの分野で権威がある「ゴードン・ベル賞」を受賞したという事実も、国の巨額投資に疑問を呈する要因の一つになっているようです。

■「『国内最速』スパコン3800万 開発のあり方めぐり議論は必至」(J-CASTニュース)

一般的には、この水準のスパコン開発には数百億円単位もの予算がかかるとも言われており、実際、その金額が、今回の「事業仕分け」で議論されているわけです。

他の記事でも、科学分野の知識を持った方々から、技術的な面や実用性の面で、「従来通りのスパコン開発」に対する様々な意見が出されています。


個人的には、科学技術予算の削減は、良いことだと思いませんが、巨額の税金をつぎ込んでのスパコンが必要なのかどうかは判断できません。
個人的には、「凍結」するのはやりすぎ、という気もします。ただ、「世界一になる」ことを目的として絶対視し、開発意義や利用法などを二の次にするのはどうかと思います。だからこれまでのやり方を見直すことは必要なのかな、という気がしますが、専門家でもないので、断言はできません。

マイスターはこうした分野の知識に詳しいわけではありません。
ただ、上記の「凍結反対」「見直しもアリ」の両方とも、主張されている内容は真実だろうと思います。

本当に世の中って、「正解のない課題」だらけですよね。
「スパコン開発に多額の税金を投入 是か非か」を高校生向けのディベート課題にしたら、双方の論点が出て面白いかもしれません。

こういう問題こそ、最終的には政治が判断するしかありません。
「事業仕分け人」は、政治の議題として話し合われるための準備をしているに過ぎず、最後に決断するのは政治家です。
(そして、政治家の仕事ぶりを判断するのが、私達国民です)

その意味で、個人的には、マスメディアの報道にはちょっと不満も覚えました。

例えばスパコンに限らず、今回の事業仕分けに反対する一連の報道では、「科学技術予算」を神聖視し、「絶対に削減してはならない」という論調を展開するマスメディアが多かったようです。
特に朝日や産経などの大手新聞社は、ノーベル賞受賞者など研究者サイドの意見を大きく取り上げ、科学技術予算の削減を、亡国論として紹介する報道が多いようでした。

科学者が、予算の削減に反対するのは当然ですし、それは悪いことではないでしょう。
でもメディアは違います。

政治という、正解のない判断ひとつひとつについて、それぞれの選択肢にどのような論点が含まれているかを一般市民に説明するのが、ジャーナリズムに期待される役割でしょう。
そうでなければ、政治家がどのような判断をしたのか、私達には判断できません。

その意味では、今回の事業仕分けにおいて、「報道業者」ではあっても、「ジャーナリスト」の役割は果たせていないメディアも多かったのではないでしょうか。
科学者の声を紹介し、科学技術の衰退を憂うだけでは、私達のような素人と変わらないのでは。
少なくともマイスターは、そんな風に感じました。

ちなみにスパコンの凍結批判に異論を唱える意見は、上記のITProのようなネット系メディアを始め、J-CASTニュース、PJnewsのような場に多かったです。あるいは、個人のブロガーの方々でしょうか。
ジャーナリズムのあり方も変わってきているのかもしれません。

大学などで科学技術に関わる方々にとっては、今回、大学人がどのように主張を展開したのか、それをどのようなメディアが、どのように報じたのかは、参考になるのではと思います。

マイスター個人としては、日本の競争力向上のためにも科学技術予算、高等教育予算の削減には反対。政治家に意見を問われれば、教育業界の一人として、削減に反対する理由をいくらでも説明するつもりです。
でも「メディアの役割」を考えるときには、少し違った視点も必要になるのかな、という気がしています。


もう一点。
今回の事業仕分けは、「総論賛成、各論反対」の危うさを、改めて私達に教えてくれているように思います。

今回の事業仕分けは、悪化した財政を立て直すためにやっているわけです。

でも、「仕分け」を受けて予算削減、あるいは事業凍結とされた事業は、報道を見ると、どれもこれも大事で必要な取り組みのように思えます。
医療でも、雇用問題でも、外交でも、ある程度の意義があって実施されているもののような気がしてきます。科学技術関連事業も、その一つでしょう。
言い出したら、「どれも削れない」という結果になりそうですよね。

財政を立て直すために予算の削減に手を付けた途端、様々な事業が破綻し、あちこちから「これでは日本の将来はない」という悲観的な声が聞こえてくる。
これって逆に言えば、今まで日本政府が、どれだけ現実を見ない無茶な財政運営を続けてきたのか、ということでしょう。
もしかすると、これまで日本が誇ってきた科学技術力も「本来の財政力」を大きくオーバーし、かなり無理して維持されていたということかもしれません。

財政を立て直さなければ、という「総論」には賛成。
でも、個々の関係者に「各論」を聞くと、削れる事業なんて一つもないと答える。

科学者や各省庁の官僚など、各事業に関わる方々が削減に反対するのは当然ですが、政治家はそれを超えた「総論の」判断しないといけないのですよね。
過去数十年にわたり、これがあまり健全に機能していなかったということなのかもしれません。

日本の財政赤字の状況は、これまでも様々な場面で語られてきましたが、今回の事業仕分けによってその危うさを初めて実感したという人も、少なくないのではないでしょうか。

ちなみに民主党が掲げる「高校教育の無償化」も、教育関係者が長年の悲願として訴えてきた政策。
でも、この無償化の財源確保のためにも「事業仕分け」を進めなければならないという点が、教育関係者にとってはなんとももどかしいところです。

以上、そんなことを思いながら、一連の報道を見ていたマイスターでした。

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【倉部史記(マイスター)】

大学院修了後、Webプロデューサー、大学職員を経て現在、早稲田塾SOHKEN(総合研究所)・主任研究員。

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